同窓会

日本同窓会イベント “Research Life in Japan” をハイブリッドで開催

7月23日、さくらサイエンスクラブ第5回日本同窓会イベントとして「Research Life in Japan」が、東京グリーンパレスの会場とZoomプラットフォームによるハイブリッド形式で開催されました。 第一部では主に修士・博士課程在籍中の同窓生によるパネルディスカッションを実施し、第二部では高知大学医学部より、日本でトップクラスの研究を牽引している専門家を迎えました。現在、高知大学医学部光線医療センター (CPDM) の専属研究員でもあるLai Hung Wei日本同窓会幹事長が主にモデレーターを務めました。今回Lai幹事長は、イベントの基本コンセプトから企画までを手がけました。開会の挨拶では科学技術振興機構(JST)甲田彰理事が「優秀な同窓生のネットワークがあらたな共同研究や協力へ結びつけば喜ばしい」と述べました。

東京グリーンパレス会場
Dr. Lai Hung Wei

第一部 “A Real-Life Sharing Session by Alumni Across the Archipelago”

このセッションでは現在日本各地で躍進中の同窓生がパネリストとして会場に集まり、教育・研究の場で経た体験や母国との違いなどをパネルディスカッション形式で話し合いました。現在、沖縄科学技術大学院大学(OIST)博士課程に在籍しているJohannes Nicolaus Wibisanaさんがファシリテーターとして自らの経験を交え、同窓生の体験談を引き出してくれました。パネリストからは有用なアドバイスや洞察がありました。

Mr. Johannes Nicolaus Wibisana
  • Nusrat Omarさん(バングラデシュ)は来日前から日本語の学習を進めておくことを推奨しました。Google翻訳は研究内容について研究室の仲間や教授と意思疎通を図るには不十分 ─日本語学習は研究上の目標を達成するためだけでなく、人間関係の構築にも役立つことを強調しました。
    Ms. Nusrat Omar
  • Rahul Marojuさん(インド)は菜食主義やハラルなど食生活に一定の決まりがある人々にとって来日当初は戸惑うことが多いかもしれない、と振り返りました。「日本ではさまざまな食材を手に入れられますが、一番確実なのは自炊」「日本人の友人と一緒に買い物に行き、食材を見分けられるようになるのがよい」とのことでした。
    Mr. Rahul Maroju
  • Bidisha Deyさん(インド)によると「パンデミック初期にはフィールドワークが取り消され、研究室も一時的に閉鎖─学生は研究成果を発表できずにいたときもありましたが、教授の手厚い指導によって満足の行く結果で学位を取得することができました」「日本で研究を行うには日本語は習得しておいたほうが有利」「日本の仕事文化は働く側に強いプレッシャーをかけがちなので、健康に留意することも大事」とのアドバイスがありました。
    Dr. Bidisha Dey
  • マイクロプラスチック汚染を研究しているThant Zin Tunさん(ミャンマー)はテクノロジーへのアクセス度合が異なるので、途上国にとってデータ収集やインフラ整備が難航することもある─「一例として日本のごみリサイクル管理システムはたいへんうまくできている」と語りました。
    Mr. Thant Zin Tun
  • Diah Anngraini Wulandariさん(インドネシア)は日本では産学官連携が広く浸透していると感じたそうです。「単に研究に必要な物品を注文するときも日本は利便性が高く、あまり待たされることもない」「日本人研究者は一日に10時間から12時間は働いている─母国では8時間で一日の仕事を終える」と日々の様子を話してくれました。
    Ms. Diah Anngraini Wulandari
  • Swetha Soundararajanさん(インド)は就活の違いを取り上げました。インドでは企業が関連学部に出向き面接を行うなど、直接学生を選抜するPlacementという慣習 があり、就活準備もカリキュラムの一部に組み込まれています。それに対して日本の就活は学生が自由に行うもの、という点に違いを感じたそうです。
    Ms. Swetha Soundararajan
  • 博士号取得後、日本で放射化学に関わる仕事に就いたNguyen Nhu Bao Chinhさん(ベトナム)は在学中も就職後もいわゆる「ほう(報告)・れん(連絡)・そう(相談)」を取り入れたコミュニケーションが非常に役立っていると語りました。放射線被ばくの危険性と隣り合わせの研究や業務に取り組むときは特にその重要性を実感しているそうです。
    Dr. Nguyen Nhu Bao Chinh

質疑応答セッション

Q: 指導教官を探したいのですが、教授の先生にはどのようにコンタクトしたら良いでしょうか?
A: 研究者はとにかく多忙なので忍耐が鍵です。すぐの返信を期待するのではなく、十分な準備期間を設けて連絡を取る必要があります。まずは自分が意図している研究分野に関係のある特定の教授にのみメールを送ってください。 2週間ほど経っても返信がない場合は、フォローアップのメールを書くか、別の教授をあたるようにしてください。

Q: 指導教官になってもらいたい先生に対してどのようにアピールしたらよいでしょうか?
A: Diah Anngraini Wulandariさんからは実体験に基づく回答がありました。
「かなり前から研究計画を準備し、履歴書やIELTSのスコアなども添付し、最初のメールを送った。」「教授から連絡を受けたあとは、共に研究内容を再検討いただき、より良い計画書を作り上げることができた。」「その後は先生から奨学金のオファーをいただいた。」

Q: 日本で学ぶための奨学金は実際どのように申し込むのでしょうか?
A: 数か月かかりますが、対象大学または在外日本大使館を通じて、誰でも文部科学省の国費外国人留学生制度(MEXT奨学金)に申し込むことができます。 大使館の対応時期は国ごとに異なり、大学経由よりも選考が遅れる傾向があります。 民間財団による奨学金も多く存在します。 中には大学の推薦状が必要なものもあり、多くは日本到着後に申し込みます。 JASSOのウェブサイトに詳しい情報があります。 さくらサイエンスプログラム(SSP)自体は研究助成や奨学金を提供していません。 短期交流、共同研究、または研修プログラムにのみファンディングを行っています。

Q: 日本語学習についてアドバイスはありますか?
A: MEXT 奨学金受給者は日本語集中講座を受けることができます。受講しなかったとしても日々の学習は必須でしょう。話すだけでなく本を読む、テレビを見るといったことも学習の一部です。すぐに上達したとは感じられなくても努力は実を結ぶでしょう。

その他留学・研究に関する質問はSakura Mentors のページでも受け付けています。

第二部 “Top-Tier Research in Japan”

Lai Hung Wei 幹事長が直接ファシリテーターを務めるこのセッションでは、高知大学医学部光線医療センターCenter for Photodynamic Medicine (CPDM) から医療専門家を迎え、光で癌を治療する最先端研究について発表いただきました。第二部開会時には高知大学医学部 降幡睦夫学部長から医学部の紹介と同大による社会貢献の展望についての挨拶もありました。その後、高知大学医学部 泌尿器科学講座 教授および光線医療センター長、井上啓史先生から5-アミノレブリン酸を介した光線力学的診断手法─5-ALA-PDDをご紹介いただきました。高知大学医学部で先駆的に開発されたこの技術は、特殊な波長の光 (PDD) と特殊な薬剤 (5-ALA) を併用して、癌組織を検出します。手術の様子を撮影した映像を参照しながら井上教授は肉眼で識別しづらい微細な膀胱の腫瘍にこの療法を施すと患部が赤色の蛍光を発し、外科医が電気メスで容易に癌組織を摘出できるようになることを説明しました。ALA-PDDを用いた手術は安全性も高く、他の癌療法に比べまれに軽い副作用があるだけだそうです。井上教授は「光線医療に興味のある学生には、ぜひ高知大学医学部で研究に従事してほしいと」とイベント参加者に呼びかけました。

井上啓史先生

光線医療センターおよび高知大学医学部泌尿器科所属の福原秀雄先生からは、膀胱癌で5-ALA を用いた光線力学診断の臨床的応用について発表していただきました。 この療法が「癌診断の補助ツール」として注目されており、「ALA-PDDによって、通常光の元では検出することが非常に困難な小さく平たい病変を外科医がよりよく観察できるようになった」ことを福原先生は指摘しました。 光線力学診断は、癌の検出率と再発率の低減にたいへん効果的であるため、日本で毎年増加し続けている膀胱癌患者の死亡率を下げるのに役立つと見込まれています。

福原秀雄先生

質疑応答セッション

Q:外国人研究者が日本で臨床研究を行うにはどうすればよいですか?
A: 二つの方法があります。まずは日本の研究機関に在籍することです。短期的な学術交流プログラムに参加し、共同研究の一環として臨床研究を行う方法もあります。

Q:光線療法は、他の様々な種類の癌に適用できますか?
A: 光線力学治療技術は脳腫瘍・肺癌・皮膚癌などにも適用されています。日本、米国、ドイツでは多様な癌を治療する療法として定着しています。

Q: 5-ALA を追加すると、癌細胞自体がさらに変異するといったことはありますか?
A: ALA-PDDの主成分である5-ALAは光に敏感に反応するプロトポルフィリンIXという化合物として癌細胞にのみ蓄積されます。プロトポルフィリンIXは健康な細胞には蓄積されません。この興味深い現象は癌細胞をとりまく健康な細胞への副作用がほとんど発生しないことを実証しています。

閉会の挨拶ではさくらサイエンスプログラム(SSP)推進本部 伊藤宗太郎 企画運営室長から本イベントをつうじて同窓生間の繋がりがさらに深まるのではないかという期待が寄せられました。また、伊藤室長は会場で直接イベントに出席したSSPプログラム創立者 沖村憲樹氏に感謝のことばを述べました。

お忙しい中ご登壇いただきました井上先生、福原先生、そして日本各地より会場に集まったパネリストや同窓会幹事に重ねて御礼を申し上げます。