同窓会
第2回ベトナム同窓会は日本で学び働くことに関し率直な体験談を共有
2021年9月25日、さくらサイエンスクラブ第2回ベトナム同窓会「Sharing Our Experiences Studying and Working Abroad」がオンライン上開催されました。さくらサイエンスクラブ ベトナム同窓会(SSCV)および科学技術振興機構(JST)の共催によるこのイベントは、SSCVのメンバーである Dr. Nguyen Thi Nhienおよび Mr. Le Huynh Sonが司会を務めました。山田 滝雄 駐ベトナム社会主義共和国日本国特命全権大使ならびにVu Hong Nam駐日ベトナム社会主義共和国特命全権大使 両氏からは、さくらサイエンス交流プログラムが日越間協力をより強化するものである、という励ましのメッセージを賜りました。また、JASSOベトナム事務所 Ms. Vu Minh Hanhからは日本留学情報をご提供いただきました。
ゲストスピーカーによる基調講演
基調講演 1
Dr. Tran Dang Xuan
広島大学大学院 先進理工系科学研究科 准教授
Dr. Tranはベトナムのタイグエン農林大学を卒業後日本へと渡り、2004年に鹿児島大学で博士号を取得しました。2012年より広島大学准教授となり、日本におけるThe Association of Vietnamese Intellectuals in Japan (AVIJ) の副会長も務めています。
Dr. Tranは、日本で成功するキャリアを築くための方法について共有してくれました。英語をあまり使わない環境で生活する場合、「日本語の習得が最も重要。一年目は、日本人の友達を作り、新聞を通じて漢字を覚え、テレビの音声でリスニングを鍛え、日本語でゼミの発表をするなど、語学力の向上に力を入れてほしい」と参加者に語りかけました。
卒業後も同窓生や教授と連絡を取り合うことは、研究者として大成するのに大いに役立ちます。「成績や定期的な論文発表も重要だが、人間関係も同じくらい大切」と講演を締めくくりました。
質疑応答では、Dr. Tranが設立した奨学金についての質問がありました。日本に留学するベトナム人学生を支援するために、Dr. Tranは同志らと奨学金を設立し、この十年間で約500人の学生を支援したそうです。
二つ目の質問は、日本での起業についてでした。日本経済や市場がすでに飽和状態であることから日本でビジネスを興すのはベトナムよりも難しいと言われています。日本の協力者と共にベトナムで起業する方が利益を見込めるのでは、とDr. Tranは予見しました。
最後にDr. Tranは若手研究者ならば、日本、ベトナムあるいは第三国でも就職先を探すことが可能、と参加者にアドバイスしました。研究に興味のある学生には、日本で経験を積むことを強く勧めました。その一方、「より多く稼ぎたいと考えている人にとっては、新興国で仕事をする方が良い」と述べました。
基調講演 2
Dr. Le Van Lich
ハノイ工科大学 講師
ハノイ工科大学(HUST)の卒業生であるDr. LeはJICA奨学金を受け京都大学にて材料科学・工学の分野で博士号を取得しました。2017年には同大学の講師に就任し、材料特性とコンピュータチップ設計を専門としています。
Dr. Leは、自身が博士号を取得する際に直面した想定外の経験について語り、「博士号を取得する前に知っておきたかった9つのこと」を共有してくれました(PDF p 6-16 参照)。
その9項目の中で、Dr. Leは何よりもまず、良い指導教官と出会うことが大切だと強調しました。「仕事や研究への取り組み方が自分に合っていて、自分の能力を最大限に引き出してくれる指導教官を見つけるべきです。」良い指導者は、大学のランキングよりも重要な場合があるとの指摘もありました。
また、博士号取得までの道のりでは、他人と自分を比較してはいけないとDr. Leはアドバイスしています。日本での研究は、「自分の興味のあるテーマを追求する絶好の機会」と参加者を励ましました。
「もし自分の指導教官が良い研究者ではないという疑いが生じたらどうしますか?」という質問に対しDr. Leは、「発表論文数がその教授の研究能力を表すものではない」と述べました。重視すべきは、教授の研究の方向性と研究室のカルチャーだそうです。もし、それらが自分の期待と異なっていたならば研究が進め辛くなるでしょう。Dr. Leは、博士課程に入って数年後に別の研究室に移らなければならなかった友人の例を挙げました。
さくらサイエンスクラブ同窓生によるシェアリングセッション
第1セッション:Dr. Nguyen Chi Long
東北大学で博士号を取得したDr. Nguyenは、現在、シカゴ大学でポスドク研究員として研鑽を積んでいるところです。彼の願いは、ベトナムと世界をつなぐ存在になり、特に腫瘍学の分野で祖国に貢献することです。
さくらサイエンス交流プログラム(SSP)が始まった2014年、一期生としてベトナムから参加したDr. Nguyenは二週間のプログラムを通じ、東北大学で目にした高度な知識や先端医療に深い感銘を受けました。
SSPでの経験は彼に大きな影響を与え、その後博士号を取得するために文部科学省の国費外国人留学生として東北大学に再来日しました。「日本で学んでおけば、後にあらゆる場所で仕事ができる」とDr. Nguyenは日本留学を高く評価しました。
さらに「異国の地では、多くの課題に直面することもある。日々新しいチャレンジに身をさらすことで、適応力と柔軟性が身に付く。それはどのようなキャリアや分野でも成功するために非常に重要なソフトスキルだ」とDr. Nguyenはアドバイスしています。
東北大学とシカゴ大学の違いについて質問されたDr. Nguyenは、「日本はより細部にまでこだわるため、研鑽を積むのに素晴らしい環境を提供している。アメリカでは、研究者がより自由に研究を行っている」と説明しました。経済的な面については、奨学金とアルバイトで費用を工面していたそうです。
どの分野の医学をどこで学ぶかについてDr. Nguyenは、「アメリカに留学する理由や意義は確実にあるものの、さくらサイエンス交流プログラムのような架け橋的な存在なしでは、米国留学までのプロセスは骨の折れるものになりがちだ」と率直に語ってくれました。
第2セッション:Ms. Ha Hoang
2016年よりさくらサイエンスクラブのメンバーであるHaさんは、国費留学生として関西学院大学で修士号を取得しました。Haさんは同大学大学院 理工学研究科で初めてのベトナム人学生でした。協力的な指導教官に恵まれたおかげで、エンジニアとして成長できたそうです。また、Haさんは学内で優れた研究成果を残した学生に授与される仁田記念賞を受賞し、ICMENS 2019(International Conference on Materials Engineering and Nano Sciences─2019年広島開催)ではベストプレゼンテーション賞を受賞しました。現在、KIOXIA Corporationの社員であるHaさんは、さくらサイエンスクラブのメンターでもあり、クラブの公式サイトで日本の就活に役立つコラムを連載中です。
Haさんが日本で働くことで得た最大の学びは「互いに協力すること」でした。大学では、他の学生と競い合って高得点や高評価を得ることが目的になっていました。しかし、実社会では全員が同じ目標に向かって協力し合います。「日本で働き始めてから、競争というものをすっかり忘れていました」とHaさんは気づいたそうです。
日本人ばかりの環境で働くことの難しさについて聞かれたHaさんは「同僚の言うことを完全には理解できなくても、常に日本語を使っています」と答えてくれました。職場のポジティブな雰囲気のおかげで、日本語は着実に上達しているそうです。
「来日前に日本語を勉強したほうが良いか」という質問についてHaさんは、日常生活の中で日本語は必ず必要になるので、来日前に始めておけば安心だと話しました。NHKワールドの「Learn Japanese」という無料学習コンテンツが初心者にお勧めだそうです。
また、博士課程ではなく修士課程を終えて就職した理由を聞かれたHaさんは「実際に使える製品を作ることに興味があったから」そして「仕事があることが、生活の安定につながるから」、と答えてくれました。安定性を重視し、Haさんは就職を選んだそうです。
さくらサイエンスクラブ事務局からはお忙しい中登壇してくださった基調講演者の皆様、来賓の皆様、司会者、参加者、そしてNgo Van Quyenさん率いるさくらサイエンスクラブ ベトナム同窓会の方々に感謝の気持ちを捧げたいと思います。実際の同窓会の様子はSSC YouTube Channelからご覧ください。