同窓会
新型コロナウィルス対策に関わる様々な防御策を共有する国際会議に130人の視聴者が参加
2020年8月5日、科学技術振興機構(JST)と科学技術国際交流センター(JISTEC)は、ウェブセミナーInternational Conference on Sharing of New Ideas on Different Defenses against Covid-19を共催しました。さくらサイエンスプラン(SSP)の代表的受け入れ機関のひとつである麻布大学 獣医学部 黄鴻堅 教授がウェビナーのホストを務めてくださいました。このウェビナーには、世界21の国・地域から130人の視聴者が参加しました。開会の挨拶として、JST中国総合研究・さくらサイエンスセンター 黒木慎一副センター長は、「さくらサイエンスプラン交流事業の運営を含む社会のあらゆる側面に多大な影響を与えている新型コロナウィルスに対する取り組みは差し迫った課題である」と述べました。
今回はタイ以外で感染者の多い五か国(インド、パキスタン、インドネシア、カザフスタン、中国)の発表者がウェビナーを通じて情報を共有しました。すべての発表者は、社会的距離の維持や自己隔離、マスクやフェイスシールドの着用、体温のモニタリング、手洗いの徹底、オンライン授業やリモートワークの推奨、eコマースの盛況等といったいわゆる「ニューノーマル」─新しい社会的基準─への大きな転換を指摘すると同時に、自国で実践されている独自の対策についても言及しました。
最初のプレゼンター、インドネシアAirlangga UniversityのDr. Elziyad Muhammad Thohawiは東ジャワ地域(主にスラバヤ、グルシーク)が陽性患者の新たなエピセンターになりつつあり、いっそう衛生対策を推進し「デマ」やあやふやな情報への警戒を強めた方が良いと提言しました。このような状況に対抗するため、インドネシアでは自動医療支援ロボット、紫外線滅菌モバイルロボット、地元で製造・開発されたバイオファーマ診断テストキットや人工呼吸器、グレーゾーン患者のサンプルを分析できる移動型ラボ、免疫を強化するハーブ製品、現地で分離したウイルスのゲノム配列に基づき、作成したワクチン候補の臨床試験等、革新的な対策が次々と導入されている様子が分かりました。
インドからはMaharashtra Animal & Fishery Sciences UniversityのDr. Vitthal Shrirang Dhaygudeが発表を行いました。インドでは3月から5月に4回の封鎖があり、同国でも人口の多い都市のひとつ、ムンバイでさえもほぼ無人の状態だったそうです。多くのスタートアップ企業が革新的かつ役に立つアイデアや新製品を考案しました。例えばAsimov Roboticsは隔離病棟へ必需品を運ぶことのできるロボットを製造したこと、インド工科大学デリー校 (IIT Delhi) 発のEstyloは全身消毒トンネルを開発したことが取り上げられました。4月初旬には新型コロナウィルスのインド版追跡アプリAarogya Setuもリリースされました。発表者はまた、ロックダウン中に男女間で家事・育児の公平な分担が実践されつつあることも指摘しました。
カザフスタンに関してはKazakh National Agrarian UniversityのDr. Laura Auberkerovaから発表がありました。2020年3月16日から5月11日の間に同国は緊急事態宣言を行い、スポーツ・娯楽施設の運営や州境の通過が制限されました。 4月末に規制が解除された後、7月16日~8月17日の間、陽性のケースが増大し、再び州境が閉鎖されました。これらの封鎖期間中には、市民の間に自分が必要としない医薬品を他人と交換できるシステムが確立されました。医学生も新型コロナウィルスとの戦いに参加しました。助けを必要とする高齢者や社会的弱者を介助者とマッチングさせる試みも始まりました。カザフスタンは3月中旬以来独自にワクチン開発を進めており、世界保健機関(WHO)もそれを有力なワクチン候補として認定しました。
回復率88.9%、死亡率2.1%のパキスタンからはUniversity of Veterinary and Animal Sciences, LahoreのDr. Muhammad Adnan Saeedが小規模な「スマートロックダウン」によってパンデミックが効果的に制御されたと述べました。経済効果を損なうことのないように、ロックダウンが一本の通りやひとつのブロック(地区)に制限されました。軽症の患者は、進んで自己隔離を行い、重篤な患者にのみ治療が施されました。一部の公的施設はまだ開いていますが、教育機関は9月15日まで閉鎖されます。その他の効果的な対策には、医療崩壊を回避するための「遠隔医療」、大規模エキスポ会場やホテルを一時的な検疫施設に作り換えたこと、祈祷の場からカーペットや敷物を撤去したことなどが挙げられました。自国独自開発の人工呼吸器の生産も続行中だそうです。
Chulalongkorn University のDr. Sirinum Pisamaiは、タイでこれまでに3,310人の陽性確定者が確認されており、1日あたり約10件の発症例があると報告しました。タイへの旅行者は14日間自己隔離しなければなりません。タイ版コロナウィルス追跡アプリ「Thai Chana」を利用するとユーザーは発行されたQRコードを店頭でスキャンすることにより、店舗・施設の込み具合やコロナウィルス対策の適正度を知ることができます。また施設の退出後にユーザーが「危険にさらされた」という通知を受け取った場合は、無料検査の対象になります。Chulalongkorn Universityの医学部では現在、独自のワクチンを開発も行っています。
中国からはChina Agricultural UniversityのDr. Liu Xianyongが現地の状況を報告しました。Face ID(顔面認識)機器の使用がキャンパス内外での生活の一部になり、博士論文の学位審査もオンラインで実施されたと述べました。大学職員は6月11日までキャンパス内に留まりました。しかし、6月中旬にDr. Liuが勤めている大学の本拠地である北京では、コロナウィルス陽性症例が約200件発生しています。 6月27日にすべての教職員と学生が新型コロナウィルスの検査を受けましたが陽性者は出ませんでした。
最後ウェビナーの完結にあたり、黄教授は海外視聴者のために日本の現状を総括してくださいしました。 日本における新型コロナウィルスによる死亡率は比較的低いため、政府はロックダウンを実施せず、緊急事態宣言を発令しました。違反者は罰金や逮捕の対象にはなりません。日本の主要な対策は、いわゆる「3密」─1)換気の悪い閉鎖空間、2)混雑した場所、3)密な接触、を回避することです。日本人はもとから花粉アレルギーを防ぐため習慣的にマスクを利用してきたため公共の場でのマスク着用は容易に受け入れられてきた経緯がある、と黄教授は解説しました。現時点では日本政府が承認した新型コロナウィルス患者の治療薬としてはレミデシビル(エボラ出血熱、SARS / MERSにも使用)およびデキサメタゾン(致死原因の一つであるサイトカインストームという免疫過剰現象を軽減するための免疫抑制剤として使用)があります。
2020年4月初旬、黄教授は新型コロナウィルスに関する各国の状況報告をレポートにして送ってほしい、とさくらサイエンスプラン(SSP)の参加者に呼びかけました。 その結果24の国や地域から合計41件の報告が黄教授のもとに送られてきました。すべての報告には示唆に富む問題提起と対策案があり、これらのレポートはさくらサイエンスプランの公式ウェブサイトに公開されました。今回のウェビナーは、新型コロナウィルスとの戦い方に関するアイデアをさらに多くの人々と共有するために実施されました。このように多様性のある有益なウェビナーにご尽力いただいた黄教授と全ての発表者にJSTおよびJISTEC関係者から、あらためて感謝の念を表明したいと思います。