2023年度 活動レポート 第72号:千葉大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第072号 (Bコース)

持続社会を目指す未来型半導体研究のオンライン討論および招へいによる共同研究基盤開拓

千葉大学大学院工学研究院
教授 石谷善博さんからの報告

 ヤンゴン工科大学(YTU)では、 JICA支援の「ミャンマー工学教育拡充プロジェクト(EEHE)」により半導体関連の教育研究を開始し、電子工学科では半導体研究を志望する学生が増加した。2019年に我が国の無償資金援助によりYTUの研究センターが竣工され、一連の装置群が導入されたが、第二期EEHEは社会情勢の混乱により中止となった。このため、先端科学技術を目指すミャンマーの学生養成と千葉大学の全員留学による国際化の両面から本事業の実施が切望されている。

 ミャンマーの国内情勢の混乱では、多くの教員や学生が大学から離れたと伺っているが、ヤンゴン工科大学、マンダレー工科大学からは本プログラム実施の強い要望があり、現地教員・学生の研究活動に関する強い意志に応え、また優秀な人材の本邦への受入れを狙って我々は本活動を行っている。受入元研究室では、今後のAI社会での半導体による膨大な電力使用に対して、その消費電力低減や発生した熱の再利用という地球規模で求められる技術基盤について実験・理論両面から研究を行っており、本事業では、半導体内の熱と光の相互作用について、ミャンマー側で推進可能な数値計算技術を展開して共同研究体制を確立すること、さらにYTUの実験設備を用いた共同研究を立ち上げることを目的とした。これにより、今後受入元研究室独自の研究にミャンマーの主要大学を取り込んだ研究体制展開の基盤形成につながることが期待される。当初は数値計算で共同研究を開始するが、漸次実験を入れた総合的共同研究に移行させることを計画している。これまでに、2019年に科学技術体験コース2020年2022年 はオンラインプログラムを実施し、2023年はこれまでの活動を基盤として共同研究活動コースを実施した。

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ミャンマーからの招へい者(国立科学博物館にて)

 本年度の招へいプログラムは8月15日~9月3日の20日間で、「持続社会を目指す未来型半導体研究のオンライン討論および招へいによる共同研究基盤開拓」をテーマとした。招へい者は学生4名と教員1名であった。研究活動内容は、従来にない赤外光の放射機構や半導体デバイスで問題となる発熱について、特に電子の光・電子物性に最も有害な影響を及ぼす半導体結晶格子振動である縦光学フォノンの半導体中ダイナミクスや表面ナノ・マイクロ構造における狭帯域光放射の物理機構の探索を行うために、光特性を対象とする有限差分時間領域(FDTD)法と格子振動に関する分子動力学(MD)法を組み合わせた計算手法の構築を進めることを目的とした。また、ミャンマーでは実験的研究が未だ殆ど立ち上がっておらず、現地に導入された装置群を有効利用していただくこと、および実験的物性解析に調和する計算手法を開拓することを想定して、半導体表面マイクロ構造の作製、フーリエ変換型赤外分光高度計(FTIR)による赤外放射測定、ラマン分光によるフォノン評価、半導体の可視・紫外発光測定を実施した。

活動レポート写真2
ラマン分光実験説明の様子、本学留学中の学生による説明

 実施にあたっては7月3日~8月15日までの期間に事前のオンラインによる内容説明、参加する学生の学習状況の把握、プログラミングの準備、実施内容の討議を行い、また招へい実施後1か月の期間にオンラインによるフォローアップを行った。

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オンライン事前討議におけるスクリーンショット

 招へい期間においては、学生を2名ずつの2グループに分け、それぞれFDTDとMDのコーディングを開始していただき、最後に統合に向けた討論を行った。本学博士課程学生が中心となって、コーディングの方向性を決めて、ミャンマーの学生とコーディングを進めた。高速な計算を行うことを前提に計算資源が必要な個所はFORTRANでコーディングし、全体をPythonでまとめてゆく方法をとった。期間中盤の11日目にはミャンマー・日本の学生間の研究討議が行われた。また国立科学博物館の見学および本学学生との意見交換会を行い交流を深めた。本招へい実施の結果、共同研究内容を十分に理解していただき共同研究活動が始められ、共同活動の展開基盤が形成された。

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研究成果発表の様子

 ミャンマーの学生の留学に関して、これまでに博士前期課程1名および博士後期課程2名が本学に入学しており、このうち2名は2019年度の招へい学生および2020年度のオンライン交流に参加した者である。今年度の参加者の1名は来年度本学への留学を希望している。
 最後に、今後早期にミャンマーの社会情勢が安定し、活発な研究活動が展開されることを期待します。また、本招へいにはJSTおよび千葉大学の多くの方のお世話になりました。感謝申し上げます。