同窓会

台湾同窓会がワークショップの成果を報告

このたび、さくらサイエンスクラブ事務局は台湾同窓会 幹事 王奕翔 (I-Hsiang Wang)さんより2026年3月1日に開催されたワークショップに関するレポートを受け取りました。和やかな雰囲気の中、有用な発表や議論の場となりました。

さくらサイエンスクラブ台湾同窓会 ワークショップ

「先端テクノロジーを日常に取り入れるとき─AI × MOF(ノーベル賞級科学)の応用と実装」

開催日:2026年3月1日
会場:国立台湾師範大学&Zoomオンライン
主催:さくらサイエンスクラブ台湾同窓会(TSSCA)
後援:科学技術振興機構(JST)

序章─国境を越える学術の共鳴

2026年3月1日(日)、さくらサイエンスクラブ台湾同窓会(TSSCA)主催、日本科学技術振興機構(JST)後援による国際交流ワークショップが、国立台湾師範大学において開催された。当日は、台湾各地から多くの学生が参加し、第一線で活躍する研究者との間で活発な意見交換が行われた。
開会にあたっては、幹事長の宋蕙伶教授およびJSTの単谷調査役より挨拶があった。両氏からは、学術交流の重要性が示されるとともに、本ワークショップが、変化の著しいデジタル時代において、日台の長期的な戦略協力を通じ、人類が直面する課題の解決に資する技術的枠組みを共に構築していくことを目指すものであるとの趣旨が述べられた。

JST単谷調査役(左)と幹事長宋蕙伶教授(右)

第1章 デジタルの感性と理性――AI活用と思考の再編

講演者:鍾明倫教授(台湾師範大学 公民教育・活動領導学系 准教授)

鍾明倫教授は、生成AIを社会学的視点や自身の研究経験と結び付けながら、その可能性と課題について講演した。教授は、仙台での地震体験や英国・香港での研究生活にも触れつつ、テクノロジーの本質的な価値は「共有」と「成長」にあるとの考えを示した。

鍾明倫准教授

講演では、2016年~2017年に香港で実施したスマート教育プロジェクトが紹介された。当時は、小学生の生理データを用いて授業中の集中度を推定する研究に取り組んでいたが、生成AIが普及していなかったことから、データ分析や倫理審査を含め、多くの技術的・制度的負担が伴ったという。

これに対し、現在ではGoogle AI Studioなどの活用により、人文社会科学系の研究者でもアプリ開発やモデル構築に取り組みやすくなっていることが示された。会場ではBMI計算アプリの生成デモも行われ、AI支援によって開発の負担が軽減され、研究者が本来の研究内容により集中できるようになっている点が紹介された。

また、AI活用においては、性能パラメータやプロンプトの工夫を理解し、適切に問いを立てる力が重要であると指摘した。特に、テンプレートの設定によって出力の正確性と創造性を調整できることや、AIに指示文そのものを改善させる手法が有効であることが説明された。

一方で、学生がAIに過度に依存することで、知識の理解が浅くなる可能性や、社会全体がAIシステムに依存した場合のリスクについても言及があった。教授は、AIによる専門能力の向上を図ると同時に、その社会的影響についても検討を深める必要があると強調した。

同窓会メンバーが活発に質問している様子

第2章 ミクロ世界の建築学――MOFの呼吸・秩序・空間美

講演者:李君婷教授(台湾師範大学 化学系 准教授)

李君婷教授は、Metal-Organic Framework(MOF、金属有機構造体)を中心に、多孔性材料の構造的特徴とその応用可能性について講演した。MOFは、金属イオンを結節点、有機分子を骨格として構成される材料であり、分子レベルで精密な構造設計が可能であることが紹介された。

李君婷准教授

講演では、京都・清水寺の木造建築に見られる「釘を使わずに部材を組み上げる構造」が引き合いに出され、MOFにおいても、有機分子の足場と金属中心の結節点を組み合わせることで、微視的レベルで安定的かつ規則的な構造を形成できることが説明された。こうした構造は内部に空隙を有しており、小分子の貯蔵や分離などに応用できる点が特徴である。

また、李教授は、MOF研究の発展に貢献した研究者たちを紹介し、その歩みが、知識の継承、動的機能を有する材料の創出、ならびに新たな空間の開拓という観点から重要であることを示した。

さらに講演の終盤では、北川進教授の「無用之用」の考え方にも触れ、一見すると役に立たないように見える空間や基礎研究が、新たな価値を生み出す可能性を持つことが強調された。あわせて、導電性フレームワーク構造の開発が、太陽電池における光電変換効率の向上につながるなど、MOFの研究がネットゼロ社会の実現にも資する可能性が示された。

国立台湾師範大学化学系の呂家栄教授も研究の現況を共有

第3章 ポリマーに生命力を与える――動的架橋の魔法と3Rの持続可能ビジョン

講演者:高島義徳教授 大阪大学 大学院 理学研究科 高分子科学専攻

ワークショップの最後には、大阪大学の高島義徳教授より、超分子材料(Supramolecular Materials)を中心とした講演が行われた。講演では、従来のプラスチックやゲル材料に対する見方を広げる形で、材料に動的な機能や修復能力を持たせる可能性が示された。

高島義徳教授

高島教授はまず、シクロデキストリン(Cyclodextrin)を用いたホスト–ゲスト系について紹介した。これは、特定の分子を包接・結合させることで材料内部に可逆的かつ移動可能な架橋を形成するものであり、従来の不可逆な共有結合とは異なる柔軟な構造制御を可能にする。このような動的架橋により、材料に高い適応性を付与できることが説明された。

また、講演では、選択的接着機能を有する材料についても紹介があった。材料が破断した場合でも、分子構造が適合する断面同士であれば再接着が可能であり、化学的特徴が一致する場合にのみ自己修復が起こる仕組みが示された。こうした特性は、材料に自己識別機能を持たせる新たな設計思想として注目される。

さらに、アゾベンゼン結合(Azo bond)を利用した光制御技術についても説明があった。特定の紫外線照射により分子構造が変化する性質を利用し、分子間距離や架橋点の位置・密度を制御することで、材料の硬さや伸縮性を遠隔的に調整できることが紹介された。この技術は、精密医療やソフトロボティクス分野への応用可能性を有するものとして示された。

講演の終盤では、ポリマー開発における3Rの考え方、すなわちReduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)の重要性が示された。動的架橋技術の活用により、材料を修復しながら長く使用し、必要に応じて再構成することが可能となるため、持続可能な社会の実現に向けた材料開発の方向性として大きな意義を有することが強調された。

李准教授が高島教授と専門内容を議論

総括─日台協力の長期的ビジョンと、学際的な刺激

JSTからは、さくらサイエンスプログラム(SSP)が40歳未満の高校卒業以上の若者を対象とした短期交流プログラムであり、科学体験(A)、共同研究(B)、技術研修(C)の3カテゴリーを通じて、日本の大学・研究機関で7日~3週間のプログラムに参加できる仕組みが改めて紹介された。応募は個人ではなく、台湾側の学校と日本側の受入機関が共同でプロジェクトを組み、日本側が申請書を提出する形であること、渡航費や日本国内経費、保険料などをJSTがサポートしていることが説明された。あわせて、日台間における科学技術分野の協力および民間交流の重要性についても強調された。

JST単谷調査役

イベント終盤では、宋教授より、2025年度SSP(さくらサイエンスプログラム)の中途成果報告が共有された。その中で、本プロジェクトの意義は、単なる日台友好の表明にとどまらず、実質的かつ長期的な学術戦略同盟の構築にあることが強調された。さらに、SSPを契機として、台湾師範大学と大阪大学をはじめとする日本側大学との間で大学間協力協定が正式に締結され、学生交流から先端的な研究協力に至るまで、包括的な連携体制が整備されつつあることが示された。

台湾同窓会幹事長 宋蕙伶教授よりSSPの成果共有
同窓会メンバーがさくらサイエンスプログラム参加の感想を共有

本ワークショップを通じて、学際的な知識や技術が相互に有機的に結び付いていることを改めて認識した。鍾明倫教授は、人間とデジタル技術の関係を踏まえ、AI時代においても人間としての感覚や判断力を維持することの重要性を示した。李君婷教授は、化学と建築を結び付ける視点から、微細な構造設計を基盤としてグリーンエネルギー分野に新たな展望を提示した。さらに、高島義徳教授は、材料と持続可能性を結び付け、自己修復機能を有するポリマーの可能性を通じて、持続可能な材料開発の方向性を示した。

加えて、北川進教授が述べた「無用」を「有用」へ変えるという視点は、科学研究にとどまらず、広く物事を捉える上でも示唆に富むものであった。専門分野の枠にとらわれず、AIのプロンプト設計からMOFや超分子の構造設計に至るまで、適切な連結の枠組みを見いだすことが、新たな価値や可能性の創出につながることを強く認識した。

本ワークショップは、日台間の学術協力の将来性を具体的に示すとともに、参加者に対して学際的視点の重要性と新たな発想の可能性を強く印象付ける機会となった。

集合写真

文:さくらサイエンスクラブ台湾同窓会幹事 王奕翔 (I-Hsiang Wang)