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2024年度 活動レポート 第63号:長崎大学

2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第63号 (Aコース)

マラヤ大学と長崎大学の科学技術交流:次世代の熱帯医学研究に向けて

長崎大学からの報告

2025年2月23日から3月1日にかけて、マレーシアのマラヤ大学寄生虫学分野から大学院生7名、教員1名を長崎大学に招へいし、「マレーシアと日本のフィールドワークに根ざした熱帯医学研究に資する若手人材の科学技術交流」プログラムを実施しました。

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熱帯医学研究所ミュージアムにて

■プログラムの背景と目的

マラヤ大学はマレーシアを代表する最高峰の大学であり、熱帯医学研究において重要な役割を果たしてきました。長崎大学とは2024年9月にMOUを締結し、研究者および学生の交流を推し進める段階でのプログラム実施であり、今後の関係性にとって重要な布石となりました。今回の交流では、同大学から将来的に熱帯医学研究に貢献する優秀な若手人材が来日し、長崎大学熱帯医学研究所の最先端技術や研究手法を体験しました。

マレーシアでは従来、蚊媒介性感染症の研究が中心であり、マダニの研究はまだ発展途上の分野です。そこでプログラムで特に注目したのは、近年世界的に重要性が高まっているマダニ媒介性感染症の調査・研究手法です。長崎大学熱帯医学研究所の星友矩助教は、すでに2019年から大規模なマダニ調査を実施しており、その知見や技術をマラヤ大学の研究者と共有することで、両国の熱帯医学研究の発展を目指しました。

■充実した研究体験プログラム

参加者たちには単なる座学に留まらない多彩なプログラムが提供されました。初日は長崎の文化・歴史に触れるところから始まり、長崎大学熱帯医学研究所の紹介と研究概要の説明を受けました。2日目には実践的な内容に移り、3Dプリンターを活用した調査機材の製作や、それら機材を活用したフィールドワークで実際のマダニの調査を実施。またフィールドワークではスマートフォンを用いた電子調査システム(Open Data Kit)による環境データ収集も体験しました。

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マダニ調査のフィールドワーク。真剣な眼差しでマダニを採集する参加者たち

4日目には、自らが採集したマダニの同定を行い、さらに電子調査システムのプログラミングを学びました。ある参加者は「マダニ採集と形態学的同定が最も印象的でした。科学がいかに楽しいかを思い出させてくれました!」と、目を輝かせて振り返りました。

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自らが採集したマダニサンプルを顕微鏡下で同定する招へい者

5日間は、マラヤ大学の参加者たちも自らの研究内容を発表し、長崎大学の研究者らと活発な意見交換が行われました。その後、自らの実施したマダニ調査のデータをGISソフトを用いて地図作成するなど、データ処理の実習に取り組みました。また立体地図を3Dプリンターで作成する手法も学び、技術習得の達成感に満ちた声も聞かれました。

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招へい者による研究内容の発表の1コマ

最終日には長崎のスタートアップエコシステム促進施設や熱帯医学研究の社会実装事例として企業を見学し、研究成果の社会還元についても学ぶ機会を得ました。

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ながさき出島インキュベータにて、中小機構のアドバイザーによる大学研究の社会実装についての枠組みを学ぶ

プログラムを終え、「サンプリング、QGIS、ODKに加え、スタートアップに関するコンテンツも非常に印象的でした。スタートアップセッションは将来の協力のための良い視点と可能性を提供してくれました」と参加者の一人は語ります。

■今後の展開

プログラムを終えた参加者の一人は、「熱帯医学研究に多分野にわたる技術(3Dプリンティング、GIS)を組み込んでいることと、マダニ採集手法の効率性向上と実用性の強化に感銘を受けました」と語り、「長期的な研究機関での滞在」を希望する声が多く聞かれました。今回の交流を皮切りに、熱帯医学分野に関する幅広い研究領域での協力関係を模索し、中でもマダニについての具体的な共同研究の実現や、博士課程・修士課程の学生の積極的な交流へと発展することが期待されています。

世界的に熱帯医学分野でフィールドワークに根ざした研究を行う人材が減少している現状において、この交流プログラムは次世代の研究者育成にも大きな意義を持ちます。今後もさくらサイエンスプログラムを通じた継続的な交流により、両国の熱帯医学研究の発展的共栄に寄与していきたいと考えています。