2024年度 活動レポート 第20号:東京都立大学

2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第20号 (Aコース)

21世紀のアーバン・レジリエンス
Towards 21st Century Urban Resilience: Design for Adaptability
TMU × CU Joint Workshop in Tokyo 2024

東京都立大学都市環境学部建築学科
准教授 伊藤 喜彦さんからの報告

 2024年9月29日~2024年10月5日、タイ王国バンコクのチュラロンコン大学建築学科の学生を招き、東京都立大学の建築学生と、東京を舞台としたワークショップを実施した。本学術交流のテーマは「アーバン・レジリエンス」、ここで言うレジリエンスは物理的な回復力というより、都市コミュニティや環境の持続的成長である。具体的には、バンコクと東京の建築学生が協力し、東京の対比的な2地域(谷根千、多摩ニュータウン)を調査し、適応性のためのデザイン、都市の回復力に関する様々な問題を提起し、共有、建築・都市的提案に結びつけることを目指した。

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 谷中を中心とした「谷根千」エリアは、東京の特徴である新旧の共存を象徴する街のひとつである。これと対比的なのは、東京西郊の多摩ニュータウン地区である。20世紀後半に短期間で造成された人工都市は、住宅問題を解消するという役割をほぼ終えており、その膨大な建築ストックと都市環境をいかに21世紀の都市モデルにアップデートするかが大きな課題となっている。

 来日前には、事前学習として、タイの学生と日本の学生にそれぞれ、谷根千と多摩ニュータウンに関する資料が提供された。来日を控えた9/23、『東京の創発的アーバニズム』の著者である建築家・都市理論家のホルヘ・アルマザン慶應義塾大学准教授によるオンラインレクチャーが実施され、巨大再開発の進む東京における小規模で「創発的」なアーバニズムの可能性が示された。

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9/23オンラインレクチャーのスクリーンショット

 東京の多様な姿について理解を促すため、来日後にまず都心部(9/30)と多摩ニュータウン(10/1)を訪問した。9/30は渋谷・表参道エリアでの大規模再開発現場や世界的建築家の作品を見学後、戦前の町家や寺社が点在する谷中に移動。木賃アパートを転用した小さな多目的施設HAGISOにてその設計者である宮崎晃吉氏による小規模な都市活性化の試みについて伺った。10/1は、まず都立大の吉川徹教授による多摩ニュータウンの概要についてのレクチャーを聴講したのち、開発時期・主体・方針の異なる3つのエリアを訪れ、それらの特徴や問題点について検証した。最後に訪れた落合エリアでは、同地で活動する建築家の横溝惇氏による多摩ニュータウン活性化の試みについて伺った。

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9/30レクチャーの様子(学生たち)

 10/2~4は、それまでに得られた知見を活かしながら両国の学生が混成チームを結成し、多摩ニュータウンの具体的なエリアを対象とした設計提案を準備した。10/4に最終講評が行われ、プログラム実施担当者である都立大の伊藤(本報告者)とチュラロンコン大のウォンプヤット准教授に加え、都立大の小泉教授と木下助教がジュリー陣に加わり、活発な議論がなされた。ヒューマン・スケールのファニチャーの提案や、機能していない広場空間の再編成、異世代間交流空間の提案がなされた。いずれにも、人工的でリジッドな街をしなやかでレジリエントな都市として未来に継承したいという意図が共通する。以上の活動を通じて、近い将来、東京と同様の高齢化社会、都市のスプロールと空洞化、歴史的遺産の消失、建築ストックの蓄積といった都市問題が予想されるバンコクの学生にとって、多くの学びがあったと考えられる。また東京の学生にとっても、見慣れた東京の風景に外国人の新たな視座が導入される貴重な経験となった。

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東京都立大学キャンパスでのグループワーク中の様子

 最終日の10/5は、小規模で匿名的な建築の集合が構成する街並みが特徴的である真鶴を訪れた。都心部ともニュータウンとも異なる都市構造を体験することで、ワークショップで得られた知識を補完することができた。

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10/4グループワークの最終プレゼンテーションから一枚