2024年度 活動レポート 第10号:電気通信大学

2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第10号 (Cコース)

インド農村部の中核医療機関との国際医工連携促進のための科学技術研修

電気通信大学からの報告

 電気通信大学は、インド・グジャラート州の眼科専門医療機関ディワリ・バ検眼大学から10名の若手教員・研究者を招へいし(うち2名は自己資金による)、10日間の科学技術研修を実施しました。本研修は、世界第二位の失明・視覚障害大国であるインドの医療課題解決と、日印間の持続的な国際医工連携の促進を目的としています。

 インドでは失明・視覚障害者数が中国に次ぐ世界第二位であり、特に小児の眼疾患である弱視(日本の100倍の発症数)や円錐角膜(日本の20倍の発症数)が多発しています。これらの課題に対応するため、インド政府はWHOの支援のもと、検眼士の倍増計画(NPCB)を打ち出しており、特に医療の行き届かない農村部での検眼士の育成と、自国製医療機器の量産・浸透が急務とされています。

 本研修では、電気通信大学の最先端研究施設や北里大学の医療現場、民間企業の研究開発拠点など、多様な場所で活動が行われました。参加者たちは日本の先進的な医療機器や技術、教育システムについて学び、実際に体験する機会を得ました。

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トプコン社にて最先端の医療機器について説明を受ける招へい者
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日本の民間クリニックで最新の医療機器の説明を受ける招へい者

 特筆すべき成果として、電通大が開発した小児弱視用治療装置「オクルパッド」の共同臨床試験の進捗が挙げられます。北里大学相模原キャンパスでの合同ゼミナールでは、これまでの臨床試験データの詳細な分析結果が報告されました。インドの農村部での使用において、従来の眼帯療法と比較して治療効果の向上と患者のアドヒアランス改善が確認されました。参加者たちは、この結果を踏まえて、インドの文化的背景や生活習慣に合わせたデバイスのカスタマイズについて活発な議論を行いました。

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日本とインドの眼科医療の違いについてディスカッションする様子
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電通大・北里大での共同研究ワークショップにて

 さらに、電通大の国際社会実装センターでは、オクルパッドのコア技術と製造工程を実際に体験。参加者たちは、インドでの現地生産の可能性や、スマートフォンアプリとの連携による遠隔モニタリングシステムの開発など、今後の展開について具体的なアイデアを提案しました。これらの提案は、今後の共同研究テーマとして発展が期待されています。

 また、脳・医工学研究の観点からは、最新のバイオフィードバック技術や非侵襲バイオセンシング技術を活用した、新たな弱視治療アプローチの可能性について議論が行われました。参加者たちは、これらの技術をインドの伝統的な瞑想法と組み合わせることで、より効果的かつ受け入れやすい治療法が開発できるのではないかという斬新なアイデアを提案しました。

 研修の締めくくりとして行われたプレゼンテーションでは、参加者たちが今後の共同研究の方向性を提示しました。具体的には、AIを活用した弱視の早期診断システムの開発、VR/AR技術を用いた新しいビジョントレーニング法の確立、そしてインドの伝統医学アーユルヴェーダの知見を取り入れた統合的な眼科治療アプローチの研究などが提案されました。これらの提案は、両大学の研究者から高い評価を受け、今後の共同研究プロジェクトとして具体化していく予定です。

 本研修を通じて、参加者たちは日本の医工連携技術や医療制度への理解を深め、自国の医療課題解決に向けた新たな視点を得ることができました。特に、オクルパッドの共同臨床試験の成果を直接議論できたことは、今後のインドでの弱視治療の発展に大きく寄与すると期待されています。
 また、日印間の持続的な研究交流や人材育成の基盤が強化されたことで、将来的なJSPS拠点形成やJICA ODAプロジェクト、さらにはSATREPSを活用した継続的な交流など、さらなる国際協力の展開が期待されます。特に、今回の研修で生まれた新たな研究アイデアを基に、両国の研究者が協力して革新的な医療技術を開発していく可能性が高まりました。

 電気通信大学は今後も、このような国際的な科学技術交流を通じて、グローバルな課題解決に貢献していくとともに、国際的な頭脳循環の促進に取り組んでいきます。特に、インドの農村部における眼科医療の課題解決に向けて、オクルパッドの更なる改良や新たな治療法の開発など、具体的なプロジェクトを推進していく予定です。これらの取り組みを通じて、日印両国の医療技術イノベーションを加速させ、世界の視覚障害者数の削減に貢献することを目指しています。

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訪問先の北里大学での集合写真