2024年度 活動レポート 第9号:情報・システム研究機構国立遺伝学研究所

2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第9号 (Bコース)

ゲノム情報時代の生物多様性資源管理

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所からの報告

 2024年9月23日~28日の6日間、マレーシア国民大学およびマレーシアサバ大学より8名の大学院生と2名の教員を大学共同利用機関法人情報・システム研究機構の国立遺伝学研究所(遺伝研)、そして理化学研究所横浜キャンパスに招へいしました。マレーシア国民大学と遺伝研とは本交流前から共同研究を進めており、2023年に2度目のMOUを締結、2024年2月には生物情報学と生物資源を主題にしたオンライン講習会も合同開催しています。今回の参加者は3倍以上の希望者の中から選抜されました。

 初日に成田から三島へ移動し、ゲストハウス等の利用や研究所近辺を案内しました。研究所の立地が閑静な住宅街の中であること、桜の木が多く植えられている点が珍しいそうです。参加者の多くがイスラム教徒のため、滞在中の食事は近くのレストランや遺伝研の食堂で特別にハラール食(宗教が定める手順で用意された食品)を用意してもらいました。また遺伝研や理研に設置されている礼拝室が非常に役立ちました。

 2日目朝から4日目午前まで、遺伝研における公共データベース(国際塩基配列データベース連携)やシーケンシング施設、主要な生物遺伝資源(イネ、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ)の維持管理について学びました。質疑応答を多く取り入れることができ、学位授与や教員採用時の論文評価の違いなどを互いに学ぶことができました。遺伝研が実施するデータベース事業は全世界から投稿される情報を公平に受付けて管理しています。同様にさくらサイエンスプログラムも、無償で他国の研究者や学生を支援しています。こうした事業を国費で実施できる懐の深さが印象的だったようです。

活動レポート写真1
世界中から収集した23種1700系統を開花させ種子を採取する方法を学ぶ(佐藤研究室)。イネの原種 O.rufipogonの中に、1965年から枯れずに栽培されつづけるマレーシアの1系統を見つけて驚いているところ。後ろにある白く大きなコンテナは太陽光を遮って日長を調節するための電動式カバー
活動レポート写真2
ショウジョウバエ飼育用ボトルから新しいボトルにハエを移動させる実習(齋藤研究室)。遺伝研では3万もの系統が、100年以上前からほぼ変わらぬ手法で維持されています。動き回るハエを二酸化炭素で麻酔し、オスとメスを見分ける実習もありました
活動レポート写真3
シーケンシング施設で最新設備を見学(先端ゲノミクス推進センター、写真はガラス越し)。最新機は配列読み取りにAIを駆使するため計算機を併置。試料を載せるフローセルの小ささに驚き、スマホで写真を撮る参加者たち
活動レポート写真4
天井までびっしり並ぶ水槽で飼育されるゼブラフィッシュの変異系統(川上研究室)。逆浸透水を作製してミネラルを加えpHを調整し、全ての水槽に均等に流れるようにフロア全体が設計されています。生きている魚の体内を蛍光顕微鏡で観察する体験にも驚いていました

 4日目午後に理化学研究所のある横浜地区に移動し、5日目に横浜キャンパスの核磁気共鳴(NMR)研究基盤、質量分析装置と顕微鏡施設(環境資源科学研究センターGTeXバイオものづくり領域)を見学しました。日本の技術で1GHz NMR装置が超コンパクトになったのみならず、液体ヘリウムをほぼリサイクルしている点や、周辺磁場が少ない点も驚きでした。(案内役として金属を身につけないように伝えていましたが杞憂でした。)質量分析装置や顕微鏡はマレーシアでも利用できますが、性能の高さと今後さらに高価格帯の装置が導入されるという話を聞いて声を上げていました。最後に株式会社リバネスによる研究者の心得や国際共同研究に関する講義も受講し、好奇心にもとづく科学のあり方について再確認していました。最終日は早朝便で帰国し密なスケジュールでしたが、あっという間の一週間でした。

活動レポート写真5
バイオものづくり向けに理研に導入された新しいLS-MSMS装置。マレーシアで果樹やキノコのメタボロミクス研究に取り組むメンバーもいたため、高性能分析装置の紹介は好評でした