2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第232号 (Aコース)
多様な文化的背景をもつ人々に対応する災害看護学の課題の明確化とシミュレーション教材開発
兵庫県立大学地域ケア開発研究所からの報告
■招へい大学の概要
International Islamic University Malaysia(以下IIUM)はマレーシア国内看護系大学7校のうち、公立大学で独立した看護学部を持つ唯一の大学です。イスラム教の理念に基づいた看護教育を行い、行政機関・公立病院等に多数の卒業生を輩出しています。この度、さくらサイエンスプログラムの助成を受け、看護学部長Muhammad Kamil Bin Che Hasan先生を含む大学院生・学部学生計10名を招へいしました。
■実施プログラム概要
①オンラインプログラム事前2回(12月・1月)および事後1回(2月)のオンラインプログラムを実施しました。全員が初来日となる事から、初回は日本の医療の概要と共に、感染予防・日本でのハラール対応の現状等も含め、渡航全般に関する情報提供を行いました。また双方の看護・看護教育に関する情報交換と共に、大学院生参加者には研究テーマをプレゼンテーションしてもらい、本学教員の研究室訪問のためのマッチング資料としました。
②災害看護教育地域ケア開発研究所において、災害看護の基本的能力についての講義・演習を行いました。防災・減災に関する計画立案、受援者とのコミュニケーション、被災者・コミュニティのアセスメント等、多様な側面から学習する内容とし、講義とシミュレーション演習を組み合わせました。演習では本学学生有志らも参加し、英語によるディスカッションや質疑応答を通して災害看護に関する学びを深めました。
人と防災未来センターの見学では被災状況の実際や避難生活・復興プロセスを疑似体験しました。また神戸赤十字病院および兵庫県災害医療センターの見学実習では、看護業務の実際や、日常業務における防災対策、災害時のプロトコール等について体験的に学習すると共に、被災地域における緊急医療支援について机上シミュレーション演習を行いました。
国際交流課の協力を得て、ちらし寿司づくり、折り紙などの文化交流イベントを開催しました。また日々のプログラムにおいて、大学までの案内や終了後の買い物・観光、最終日の学習成果発表会でのファシリテーションなど、本学学生が多様な場面で参加者と交流する機会を持つ事が出来ました。また参加者の興味関心に合わせ、本学の講師・准教授を中心とした若手教員の研究室を訪問しました。
⑤学習成果発表会プログラム終了日には、本学学生と教員有志による昼食会の後、IIUM学生9名による学習成果発表会を開催しました。DMATなどの災害医療体制や、神戸赤十字病院の被災地への看護師派遣プログラムの他、避難所設営やトリアージなどの机上シミュレーションはマレーシアの看護教育でも取り入れたい内容として発表されていました。発表会終了後は本学学生投票によるベストプレゼンテーション賞や手作りのメッセージカードの贈呈、IIUM学生らによる踊りと寸劇等が披露され、学術面に加えて文化交流の点からも大変充実した会となりました。全てのプログラムの終了後も学生同士で名残惜しく語り合う姿が見られました。
■プログラム評価
事後のオンラインプログラムでは、IIUM学部学生1名・大学院生2名のプレゼンテーションにより、本プログラムでの学習成果とプログラム全般にかかる評価を実施しました。研修内容については、講義、演習(体験)、グループ討議、施設見学と多彩な学習方法・機会が提供され、集中して楽しく学習することができたとのフィードバックがありました。また、日本のムスリムに関する知識を基に、災害時の文化的宗教的配慮について指摘と提案がなされました。来日後、すぐにプログラムが開始となり、日本文化を深く学ぶ時間が取れなかったこと、災害看護以外にも、日本の看護医療の現状、自国との違いについてもっと知りたかったとの意見がありましたが、プログラム全体にわたる細かな配慮やホスピタリティに関する感謝の言葉が聞かれました。さくらサイエンスプログラムを契機に、本学教員との共同研究や相互留学等の継続的な教育・学術交流の基盤を築くことができました。心より感謝申し上げます。