2023年度 活動レポート 第219号:北九州市立大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第219号 (Aコース)

SDGsを都市・農村の6次産業で実装するための消費者向けプロダクト開発実習

北九州市立大学からの報告

 2024年2月24日から3月1日までの7日間、タイ王国タクシン大学の学生9名がKanokphorn Sangkharak准教授の引率で来日しました。

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福岡空港に到着後、日本の観光地物産市場調査のため大分県別府市へ

 北九州市立大学では、2023年5月から、タクシン大学との教育研究交流を進めています。共通テーマとしているのは、地域に賦存する未利用有機物の資源化であり、それらを用いた商品の開発と地域所得の向上、さらには、アントレプレナーシップを発揮する機会の創出です。これは、アジア地域の「環境首都」ならびにSDGs先進都市としての取り組みを進める北九州市・北九州市立大学とタイ王国から農村地域の持続可能な開発の任を負うタクシン大学が共同で取り組むことのできるテーマです。本学は、これまでに環境保全にかかわる広範な先端技術とマネジメント手法の学術的検討を進めてきました。本プログラムは、SDGsにかかわる二国間の相互連携事業として位置づけられるものです。

 以上の流れにおいて、本学では、将来のタイ国政府や日本政府による国費留学制度、また、私費での留学希望者をさくらサイエンスプログラムの実施を通じて短期研修の形で招へいし、先方の大学と共同で若手研究者・実務家の育成に繋げるための研究グループ間での人材のマッチングに取り組んでいます。タイのタクシン大学では、教育研究設備の充実を国の支援を背景に進展させる一方で、学生の国際的な文脈における研究開発や製品開発・市場開拓の実践機会が不足しています。そのことから、本交流計画においては、本学が先行的に取り組んでいる地域企業との連携による製品開発プログラムや市場調査機会を組み入れることにしました。それにより、タクシン大学の技術・製品主導の開発の考え方に、市場・ユーザー主導の思考法を加えることにしました。

 招へいする学生の選考に当たっては、タクシン大学における選考会に本学からも審査員として教員が参加しました。タクシン大学は、学生の選考にあたって、学生プロジェクトとしての製品開発を含めた事業計画の秀逸さ、英語の運用能力、外国渡航が初めてであることを基準としていました。
 招へい学生たちが、すべて初めて来日するということ、また、彼らが来日前に開発した製品が、日本市場を対象としていることから、日本・九州の自然・文化・社会を感じることのできるプログラムを含めました。初日と2日目の太宰府天満宮から別府温泉、山口県下関市、北九州市門司区では、それぞれの観光地・商業施設において、ベンチマークになる商品をピックアップさせて受け入れ教員の指導の元で作成した商品マーケティングのレポートを作成させました。

 第3日と第4日前半は、技術・マーケティング指導のため、教育研究連携先である地域企業2社への見学に向かいました。1社目のシャボン玉石けん株式会社には、タクシン大学の3つの学生チームが製作してきた石けん商品を事前に持ち込んで、製品開発責任者に評価をしてもらい、それを踏まえた学生たちとの商品改善に向けたディスカッションを行いました。

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シャボン玉石けん株式会社の施設見学と学生プロジェクト商品についてのディスカッション

 2社目の株式会社ヤギシタでは、食肉代替と健康志向市場への対応に向けた植物由来の大豆ミートを材料としたソーセージを共同開発するための基礎となる加工工程についての研修を受けました。タクシン大学(パッタルンキャンパス)が立地するタイ南部では、農村の所得向上に向けた産業振興へ持続可能性の文脈で取り組むことが喫緊の課題となっています。高い技術力を保有する企業との連携を通じた製品開発の機会が限られたタイの学生にとって、日本の企業との交流を通じた技術開発・改善への取り組みは、貴重な機会となったようです。

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株式会社ヤギシタの社員によるソーセージ加工指導実習

 第4日後半と第5日は、北九州市立大学の学生も参加する形で、大豆ミート商品の開発に取り組み、大学職員による試食とアンケート調査にも取り組みました。受け入れ教員の指導の下、タイの学生の製品開発の考え方を踏まえつつ、日本の学生の消費者としての嗜好性を組み合わせながら、日タイ混成チームで食材を調達し、株式会社ヤギシタから提供された腸詰め資材を用いた大豆ミート・ソーセージを制作しました。第4日後半のうちに、1次制作を行い相互に試食を行って、改善点を整理し、第5日の2次制作に活かしました。第6日は、大学教職員を招いて、4つの日タイ混成チームが制作した2種類ずつの大豆ミート・ソーセージ試作の試食をした上で、製品への投票とフィードバックをしてもらいました。それを踏まえ、学生チームは、試作品のコンセプトと販売プランを含めた事業計画を作成してプレゼンテーションを行い、相互評価をした上で、教授陣からのフィードバックを得ました。また、この試食会と並行したタクシン大学が持参した学生プロジェクトによる石けん商品へのアンケート調査も行い、商品改善に繋げました。

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日タイ学生チームによる大豆ミート商品の企画と試作実習

 今回の実習ワークショップ活動は、招へい学生ばかりでなく、引率の教員にとっても楽しみと学びの場となったようです。また、北九州エコタウン(産業・一般廃棄物の再資源化施設)の見学についても、日本の地方都市のひとつである北九州市の環境保全と産業振興への取り組みに触れ、先進性に驚きを得たようでした。

 第6日の最後は、日タイ学生チームによる開発商品に関するコンセプトと事業計画の発表会を行いました。いずれの学生チームも試作に対するフィードバックを踏まえることにより、自信がにじみ出る口頭発表となり、それを踏まえたディスカッションでも商品改善に向けて充実したやり取りがなされました。事業計画の発表会の後は、さくらサイエンスプログラム修了証の授与式に移りました。

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日タイ混成学生チームによる英語での事業計画発表

 第6日の夜は、北九州市立大学の学生を含めた参加者全員での送別会を開き、日本料理を楽しみました。共同研究や学生間交流、留学に向けた話題について、今後に繋がる意見の交換もできました。第7日の朝から、タクシン大学のみなさんは、無事にタイへ帰国しました。