2023年度 活動レポート 第83号:東京都市大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第083号 (Aコース)

2023年度さくらサイエンス ケニア・ジョモケニヤッタ大学受け入れ報告

東京都市大学理工学部
准教授 桃沢愛さんからの報告

送り出し機関:

Jomo Kenyatta University of Agriculture and Technology / ジョモケニヤッタ農工大学
College of Engineering & Technology / 工学部
Pan African University Institute for Basic Sciences, technology and Innovation (PAUSTI)

受け入れ対象

学生9名(うちPAUSTI学生1名)+引率教員1名

交流テーマ:複合材料創成実験による基礎材料学の理解
受け入れ研究室:理工学部

  • 機械工学科機械材料研究室(藤間卓也教授・丸山恵史准教授)
  • 応用化学科固体材料科学研究室(小林亮太准教授)
  • 医用工学科医用材料工学研究室(桃沢愛准教授)

受け入れ期間:2022年10月23日(来日)~29日(離日)
*今回の受け入れに合わせて、JICAプロジェクトによるケニア人研究者4名+JICA専門官1名も来日し、研究室受け入れの見学を中心として、プログラム全体を視察した。

活動レポート写真1

各研究室での研究体験

 ケニア人学生たちは、各グループ3人、3つの研究グループに分かれて、研究体験を行った。各グループの学生には、研究室所属学生がTAとしてサポートを行った。

研究体験①

 階層性ナノ多孔層(ガラス)の基本性質および機能性の理解

  • HNLガラスの低反射性、超親水性の説明および反射率測定、接触角測定を用いた実験
  • 超親水性に由来した防曇性、防汚性の試験
  • FE‑SEMを用いたHNLガラス断面の微視観察
  • HNLガラスの低反射性を確認するデモ動画の撮影
  • 粘着テープに対するアンカー効果のデモ実験
実施事項および結果
  • HNLガラスの低反射性、超親水性の説明および反射率測定、接触角測定を用いた実験
    実際にHNLが形成されたガラスに対して反射率測定を行った。HNL構造が厚いものと薄いものを比較し、測定されたスペクトルの違いや反射率の結果から様々な考察を行った。
    接触角測定については未処理のガラスとHNLガラスを比べることで超親水性の発現を観察した。
  • 超親水性に由来した防曇性、防汚性の試験
    防曇性はガラスに対して呼気試験を行い、未処理のガラスが曇るような条件でもHNLガラスは曇らないことを体験した。
    防曇性試験はラー油を垂らした未処理ガラスとHNLガラスを水に沈めることでそれぞれの挙動について観察した。結果として、未処理ガラスはラー油がガラス上に留まっていたのに対して、HNLガラスではラー油が球状に変化し、その後ガラスから離れていく様子が観察された。
  • FE‑SEMを用いたHNLガラス断面の微視観察
    FE‑SEMの使い方の説明後、実際にHNLガラスの断面微視観察を行うことでHNLガラスの特徴である階層性、多孔性を観察することができた。
  • HNLガラスの低反射性を確認するデモ動画の撮影
    等々力渓谷に行き、きれいな景色の下、HNLガラスのデモ動画の撮影を行った。
    HNLガラスは幅広い入射角度に対して効果があることを観察することができた。
  • 粘着テープに対するアンカー効果のデモ実験
    HNLガラスと未処理のガラスに対してテープ試験を行い、ガラスとテープの密着性を評価した。結果として、未処理ガラスではテープが容易に剥がれたのに対し、HNLガラスでは上手く剥がれず、密着性の差異を確認できた。
研究体験②

 サーメットのアーク溶解実験

  • アーク溶解
    Mo2NiB2‑Ni系サーメットについて、結合相の組成が異なる2種類の試料に対してアーク溶解を行った。また組成による特性の変化について検証するため以下の3つの試験を行った。
  • XRD
    溶解した試料を窒化ケイ素製の乳鉢を用いて粉砕した後、XRDによる生成相の同定を行った。生成相はアーク溶解前後で一致した。
  • SEMによる組織観察
    溶解した試料をファインカッターで切り出した後、湿式研磨を行った。反射電子組成像によって2相生成していることを確認した。(XRDの結果とも一致した) 。
  • ナノインデンテーション試験
    溶解した試料を研磨し表面を平滑にした後、ナノインデンターによる微小硬さ試験を行った。試験荷重1000μNで10μmに10×10点の圧子を打ち込み、相ごとの硬さを評価した。10μm×10μmの領域に試験荷重1000μN、保持時間0.5sの条件で硬さ試験を実施し、相ごとの硬さを評価した。硬質相と結合相で硬さが異なることを確認した。
研究体験③

 テーマ:放電プラズマ焼結(SPS)によるセラミックス材料作製

  • SPSによるタングステンカーバイト(WC)セラミックスの作製
    異なる粒径・焼結温度によるWCセラミックスの焼結を、放電プラズマ焼結法を用いて行った。
  • 試料研磨
    作製した試料の硬度計測および微細構造観察のために試料表面の研磨を行った。
  • ビッカース硬度計測・SEMによる微細構造観察
    ビッカース硬度計を用いて、作製した試料の硬度を計測した。
    SEMを用いて、作製試料の微細構造の観察を行い、また、ビッカース硬度計測における圧痕の観察を行った。
受け入れ研究室による見学ツアーおよび歓迎会

 初日の午後は受け入れの3研究室を訪問する見学ツアーが行われた。その後、研究室合同の歓迎会が行われた。

活動レポート写真2
受け入れ学生による感想

 実際にケニアの方々と交流していく中で、大学においての実験に対する姿勢の違いや設備の違いなどを多く知る機会があった。その中でも特に驚いたことはジョモケニヤッタ大学がケニアでも大きな工業大学であるにもかかわらず、実験設備が本学ほど備わっていないということだった。このことに関しては、実際に実験をあまり行わない海外の大学と実験を多く行う日本の大学の差が出ていてとても興味深く感じた。自身が行っている研究についても気づかされることが多くあり、とても充実した時間だったと感じた。
 今回のさくらサイエンスプログラムでは、異なる国の学生と自分の研究分野について語り合うことができて、非常に有意義な経験ができたと感じている。英語力に関しては、本学留学プログラム(TAP)の参加を通じて、日常会話や一般的なコミュニケーションでは問題ないスキルを身につけた。しかし、今回初めて自分の研究や専門分野に関する内容を英語で表現する難しさを実感し、更なる英語力向上の意欲を感じた。今後もこうした機会があれば、積極的に参加したいと考えている。

活動レポート写真3

その他の期間中の活動と受け入れ学生の感想

・キャンパスツアーおよびランチ

 初日のオープニングセレモニーの後、大学のアンバサダーグループ学生によるキャンパスツアーと学生食堂でのランチ会が行われた。ケニアからの学生は、大学の施設が綺麗で広く、感動していた。また11号館からの眺望(富士山含む)を非常に気に入っていた。昼食の際にハラルの人の選択肢が少なかったため、通学中などに尾山台で先に調達しておくと良いと感じた。

・渋谷視察

 研究室における実験の後、各研究室のTAの学生および留学生会アンバサダーグループ学生による渋谷ツアーを行い、回転寿司屋や電器店、ディスカウントストアなどを訪問した。既に時間は18時に近づいていて、ラッシュの時間であったことから、彼らは車内の人の多さに驚いて、思わず写真をパシャリと撮っていた。私達にとっては、いつもの出来事であるため、何も感じることはないが、彼らにとっては違っていた。
 夜に光り輝く、人が溢れすぎている街に彼らは魅了されていた。彼らはその街と一緒に写真撮影を行っていた。予想以上に撮影が長く、よっぽど気に入ったのだろうと感じた。彼らを渋谷に連れて来ただけではあったが喜んでもらうことが出来て、本当に良かったと思った。また、新たな留学生が来日する際には渋谷に連れて行きたいと強く思った。
 街並みを散歩しながら、彼らは「日本は美しい国だね~」(“This country is so beautiful”)と褒めてくれた。日本のほんの一部でしかないが、そう言ってもらい、とても嬉しくなった。長い間日本に住んでいる私達にとっては、特別感はなく忘れがちではあるが、日本という国は美しく素晴らしい国であることを再認識することが出来た。これは、海外の人に言われないと気づけなかったりもするのだろう。また、スシを食べたい人が多かったが、チェーン店のスシローは長蛇の列(平日でも2時間待ち)であったため、事前に予約するのが良いと思った。

・未来館およびその周辺施設訪問

 10月26日午後にはケニア人学生および各研究室のTAの学生および留学生会アンバサダーグループ学生と共に、お台場にある科学未来館およびその周辺施設(カワサキロボサイト等)を訪問した。

・その他サポートをした感想

 ケニアからの招へい学生とは沢山話す機会があり、ケニアや日本の文化の違いなどについて話した。特に驚いたのが、男性陣はフォーマルな場では日本の野球少年のように髪を短くしていることがマナーということを聞いた。そのこともあって、男性陣の髪は短く同じスタイルであったのだと学んだ。また女性陣も髪をブレイズにしており、理由を聞くと、くせ毛が目立つため、髪を綺麗にまとめておきたいとのことだった。5日間を通して、親しくなった友達何人か出来、別れは簡単なものではなかった。最後の別れは皆と抱きしめ合い、またいつか会えると言い残し、泣きそうになりながらも、別れを告げた。今回の経験は学びあり、笑あり、悲しみありと多くのことを体験することが出来た。
 そして、このような経験は簡単に出来るものではない。だからこそ、このように振り返って、私はアンバサダーの係員として、彼らの面倒を見ることが出来て、本当に心から良かったと思った。またの機会があれば、やりたいと今も強く思っている。

成果報告会・修了式およびフェアウェルパーティ

  • 研究テーマごとに15分ずつ研究成果やその他の経験についての報告を行った。その後、三木学長より学生一人ずつにさくらサイエンスプログラム修了書が配布された。
  • 今年度は修了式後にフェアウェルパーティが開催され、総勢50名以上集まり、盛会のうちにプログラムは終了となった。
  • 今回のさくらサイエンスプログラムの受け入れは、ジョモケニヤッタ大学だけでなく、昨年 同様同時期にタイのタマサート大学の受け入れも一緒であったことから、終了後交流の機会も生まれた。
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