2022年度 活動レポート 第186号:東京都市大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第186号 (Aコース)

ケニア・ジョモケニヤッタ農工大学受け入れ報告
自律移動ロボット制御実験を通じた学生の交流

東京都市大学理工学部
准教授 桃沢 愛さんからの報告

<送り出し機関>

 Jomo Kenyatta University of Agriculture and Technology / ジョモケニヤッタ農工大学
 College of Engineering & Technology / 工学部

<受け入れ対象>

 学部学生10名+引率教員1名

<受け入れ研究室>

 機械システム工学科

  • 高機能機械制御研究室(野中健一郎教授、関口和真准教授)
  • ロボティックライフサポート研究室(佐藤大祐准教授、藪井将太准教授)

<受け入れ期間と実施内容>

 2022年10月23日(来日)~29日(離日)

10月23日 来日
10月24日 午前:大学紹介・キャンパスツアー
午後:研究室(4研究室)配属および研究室ガイダンス
10月25日~
10月26日
終日:研究室に分かれての研究体験
10月27日 午前:研究室に分かれての研究体験
午後:日本科学未来館見学
10月28日 午前:成果報告会準備
午後:配属研究室ごとの成果報告会・修了式
10月29日 秋葉原等東京探索、離日

*今回の受け入れに合わせて、JICAプロジェクトによるケニア人研究者4名+JICA専門官1名も来日し、研究室受け入れの見学を中心として、プログラム全体を視察した。
(参加研究者1名が今回の交流をきっかけに2023年度より東京都市大に博士課程入学)

■各研究室での研究体験

 ケニア人学生たちは、各グループ2~3人、4つの研究グループに分かれて、研究体験を行った。各グループの学生には、研究室所属学生がTAとしてサポートを行った。多くの学生が、(最終学年である)大学5年であったが、ケニアでは日本のように卒業研究に取り組むことがないため、実際に研究に取り組んだ今回の経験は、貴重だったようである。

 また、研究室という環境で学生が主体的に働く姿や、充実した設備、機器を使った作業に関する学生の知識の深さは印象的だったようである。この体験がきっかけで、ケニアでロボット工学の研究を行うために大学院への進学を考えたり、また、(国費留学生制度など)があることを知り、日本への留学について真剣に考えるようになったりした学生も過半数いたようである。

 一方、受け入れ研究室のTAの学生にとっても、語学の壁はありつつも、実験の遂行のために複雑な用語を使わなくても明確に理解できるよう工夫してコミュニケーションを取っていた。また、バディ学生(研究室活動以外をサポートした学生)も含めて実験終了後に渋谷や秋葉原など、ケニア人学生の希望に応じて一緒に出掛けて交流を深めたようである。

1. ホーム ロボットシミュレーション Sameel Halai・Bob Gatai

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URDFというロボットの設計によく使われるソフトで、これを用いてロボット本体の設計を行った。その後、Gazeboという3Dの環境を提供するプログラム上でロボットの動きのシミュレーションを行った。

2. ドローン実験 Mohamed Hashir Hussein・Mureithi Yvonne・Rose Caleno

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ドローンの制御について、手動制御と自動制御の比較実験を行った。自動制御についてはプログラムの作成を行った。
プログラムによる自動制御の方が、手動制御に比べてドローンの軌道や高度をより正確に制御できることが分かった。

3. 倒立振り子の実験 Victor Kimaru・Sylvia Jebet

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倒立振り子とは、制御アルゴリズムをテストするための指標として広く使用されているものである。
今回の実験では、「Beauto Balancer 2」を動かして、その本体と車輪の角度やスピードの計測を行った。また、Beauto Balancer 2の上に紙コップを置き、ロボットの安定性の検証を行った。
さらに、いくつかのBeauto Balancer 2を用いて、安定性を競う実験を行った。

4. LiDAR‑SLAM Gloria Chepngeno・Faith Hunja・Ian Muchiri

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SLAMは自律走行車に用いられる手法であるが、地図構築と自車両の位置特定を同時に行うことができることから、作成された地図情報をもとに、障害物回避や経路計画などを行う。
今回の実験ではVelodyne LiDAR sensorを用いて実験を行った結果、レーザーセンサーを使用することで、LiDAR SLAMは、高精度の距離測定を可能にし、地図作成に非常に有効であることが分かった。そのため、LiDAR SLAMは自動運転車やドローンなど、高速で移動する乗り物に搭載することができるが、点群マッチングに高い処理能力が必要、動的な物体の影響を受けやすい、点群データは画像ほど精細ではないなどの課題が見つかった。

■その他の期間中の活動

・未来館およびその周辺施設訪問

 10月27日、午後にはケニア人学生の他、各研究室のTAの学生およびバディ学生と共に、お台場にある科学未来館およびその周辺施設(カワサキロボサイト等)を訪問した。メカトロニクスや電気電子工学を専攻する学生が多かったため、ロボットを中心とした展示にとても刺激を受けたとのことであった。

・大学周辺・東京探索

 滞在中、ケニア人学生たちは非常に活動的で、毎日の実験実習の後時間を惜しんで大学の周りを散策したり、秋葉原や渋谷および近辺の寺社を訪問したりしていた。日本の住宅地の整然とした様子に驚く学生も多く、多くの刺激を受けたようである。このような自由時間であっても、初めて電車に乗る学生も多く、単独行動は難しかったため、TAおよびバディがホテルに送り届けるところまでアテンドした。
 今回の訪問学生は人によって経済的な状況が大きく異なっていたため、彼らの希望を聞きつつ、なるべくお金をかけずに楽しめるような場所を案内するなど、配慮しつつアテンドしていた。

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■成果報告会および修了式

  • 研究テーマごとに15分ずつ研究成果やその他の経験についての報告を行った。その後、三木学長より学生一人ずつにさくらサイエンスプログラム修了書が配布された。
  • 今回のさくらサイエンス受け入れは、ジョモケニヤッタ大学だけでなく、同時期にオーストラリア・サザンクロス大学およびタイのタマサート大学の受け入れも一緒であったことから、報告会では招へい学生同士お互いに活発な質疑応答があり、終了後交流の機会も生まれた。また、この交流には本学の学生も加わり、夜は皆で街に出かけていた。
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■アンケート結果:

  1. さくらサイエンスに対する満足度:全員が「非常に満足」と回答
  2. 最も印象に残ったプログラム
    1. 研究室訪問 4人 2.日本文化の体験 4人 3. 未来館等見学 3人
  3. 再度の訪日を希望:全員が「強く希望する」
  4. どのような形での来日を希望するか?
    1. 留学生 7人 2. 研究員 3人(引率教員1名含む) 3. 企業社員 1人

■参加引率教員・学生の感想から

  • 研究室という環境で学生が主体的に働く姿を見ることができたのは、私にとっても大きな機会でした。研究室の設備は非常に充実しており、機器の操作に関する学生の知識は印象的でした。(引率教員)
  • このプログラムは、学問的にも社会的にも、本当に良い経験でした。さらに勉強するため、また日本での生活を体験するために、ぜひ日本に戻りたいです。
  • さくらサイエンスプログラムでは、日本の文化に触れながら実験ができ、東京都市大学の学生と交流し、学ぶことができたので、素晴らしい体験でした。LiDAR‑SLAM実験は、障害物の回避、経路計画、回避に関する知識を深める良い機会でした。これは、ケニアでのロボット工学の実験に生かすことができると思います。日本でさらに勉強するための奨学金があるのは、とても良いと思います。
  • このプログラムは、日本文化に触れる絶好の機会でした。大学の人たちは親切で、とても温かく迎えてくれました。留学生を受け入れる環境が整っているので、ここで大学院の勉強をしたいと思います。大学の設備や技術部門も充実しています。この国の秩序や制度も非常に整っており、とても素晴らしいと思います。
  • このような機会を与えてくれて、本当にありがとうございます。私は、異なる文化やキャリアを持つ非常に多くの人々と交流しました。私は、世界を異なる視点から見ることを学びました。私は間違いなく、ここで修士課程に進むことを楽しみにしています。
  • 私はこのプログラム、特に異なる国籍の人たちとの交流を本当に楽しんでいます。プログラムについては、学習セッションでも異なる国籍の人たちが交流するセッションがあったほうがいいと思います。また、科学未来館の見学はとても勉強になりました。このような機会を与えていただき、美しい日本文化に触れることができたことに感謝しています。私は今、お箸の使い方の達人になっています。また近いうちに日本に来るのが楽しみです。
  • JSTと受け入れのチームに感謝します。完璧に組織され、これ以上のものはないと思います。TCUのスタッフ、TAとの交流も楽しかったです。修士課程で日本にまた来たいと思います。この経験は、言葉では言い尽くせないほど素晴らしいものでした。
  • 日本を訪れ、文化体験、実験室での実験、さまざまな現場訪問、日本や他の国の人々との出会いや交流、新しい技術に触れることができ、とても楽しい経験をすることができました。この機会に本当に感謝し、大学院での勉強や仕事の機会があれば、また日本に来たいと思います。このような機会を与えてくれてありがとうございました。また近いうちにお会いできることを期待しています。
  • 興味深いプログラムです。研究室での学習や文化体験は素晴らしい経験でした。
  • このプログラムは目を見張るような経験で、このプログラムに参加できたことに感謝しています。日本や海外の多くの学生と日本での経験について交流することができ、貴重なアドバイスを得ることができました。また、TA(ティーチングアシスタント)は、とても親切で忍耐強く、私たちに実験の指導をしてくれたとともに、様々な場所を案内してくれました。
  • この交流プログラムはとても有意義なものでした。言葉の壁にもかかわらず学生たちと交流することよって、コミュニケーションが上手になり、複雑な用語を使わなくてもはっきりと理解してもらえるようになることを学びました。私は、日本文化の大きな部分である秩序ある構造が、いかに生活を快適にしているかを見てきました。
●今後さくらサイエンスメンバーとして(参加学生たちの目標)
  1. さくらサイエンスクラブのアクティブメンバーとして活動することを目指す。
  2. ケニアにさくらサイエンスクラブを作る。
  3. 日本での大学院留学を目指す。
  4. 次のさくらサイエンスプログラムに参加する学生の支援をする。

■JKUATアカデミックスタッフ受け入れ

 JKUATは、JICAの「アフリカ型イノベーション振興・JKUAT/PAU/AUネットワークプロジェクト(フェーズ2)」により、支援を受けている。このプロジェクトにより、JKUATのアカデミックスタッフ4名とJICA専門官(JKUAT客員准教授 青木翔平氏)が今回のさくらサイエンスプログラムに合わせて来日した。
 彼らの今回の訪問の目的は、さくらサイエンスプログラムの中心となる学生たちの科学体験プロジェクトを視察し、日本での研究教育について(研究室制度)学ぶこと、また、専門の最先端の研究施設を訪問することであった。彼らは3日間にわたる4研究室での学生の実験を視察した。また、施設訪問先としてJAXA相模原のはやぶさ2プロジェクトチームメンバーを訪問して、宇宙科学探査交流棟および研究室を見学した。
 このJICAプロジェクトの活動の一つとして、「JKUATの若手教員を対象とした長期研修(本邦大学博士課程留学)を実施する」ことがあるが、今回の訪問をきっかけとして、JKUATの若手の教員1名が、2023年度4月より東京都市大学大学院の博士課程に入学した。

■今後に向けて

  • 東京都市大学は、東南アジアからの学生の受け入れ実績は多いが、今回初めてアフリカから学生を受け入れた。様々な意味で、アジアからの学生より一段手厚いサポートが必要であった。自分の研究室での受け入れがなかったにも拘らず、思った以上の対応の多さに、受け入れの担当教員として一週間はさくらサイエンスの仕事で追われてしまった。サポートのためにTA以外にも多くのバディが必要であった。それでも、本学学生にとってはとても良い経験となり、参加学生との交流を通じて多くの刺激を受けたようであった。大学の国際化、学生の意識改革のためのよい機会となった。学生たちのホスピタリティの高さに気づくことが出来たことも、大きな収穫であった。
  • 今回の受け入れをきっかけとして、先述の通りJKUATから本学へ留学する学生がいたが、MOU締結に向けて、今年度後半に本学から学生を含めた交流訪問を行うことを計画している。また、将来的な共同研究に向けての打ち合わせも行っている。
  • 今回のプログラム参加学生たちは、「さくらサイエンスクラブ」のメンバーになったという認識を持っており、メンバーとしての活動を行ったり、今回がきっかけとなって奨学金を得て日本に大学院留学をしたいと考えたりしている学生も多い。そのため、「さくらサイエンスクラブ」のアクティブな活動、また、日本留学のための奨学金の情報の提供・日本留学フェアなどのいわゆる「アフターケア」が大事であると思った。