2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第025号 (Aコース)
数理科学に関するバングラデシュとの学術交流ならびに高度人材育成基盤の持続的構築
奈良女子大学理学部・化学生物環境学科・環境科学コース
教授 高須 夫悟さんからの報告
2023年7月23日から29日の日程で、奈良女子大学の海外協定校であるバングラデシュのチッタゴン大学から学生9名(学部学生8名、大学院生1名)と教員1名を奈良女子大学理学部に招へいして学術交流プログラムを実施しました。具体的には、奈良女子大学理学部・化学生物環境学科・環境科学コースで行っている数理的手法を用いた個体群動態の講義とプログラミング言語pythonを用いた数理モデルの数値シミュレーション実習ならびに最終課題として自らがテーマを設定して構築した数理モデルの解析結果に関するプレゼンテーションです。学術交流に加え、奈良女子大学の学生や奈良市地域の一般市民との交流イベントを複数回実施し、チッタゴン大学との持続的交流基盤を強化しました。
学術交流では、非線形力学系としての個体群動態の数理モデルと計算機を用いた数値シミュレーション実習に取り組みました。5日間のプログラムの前半は講義と演習、後半は前半で学んだ知識を用いて自分の数理モデルを構築し、最終日のプレゼンテーションの準備・発表に臨みました。個体群動態の数理モデルは人口動態や感染症の流行など様々なダイナミクスに応用可能です。参加者は各自、自分が興味を持つ研究テーマを設定し、自分の数理モデルを組み立てこれを解析して発表するという「ミニ研究」に取り組みました。座学だけに留まらないこうした活動は、参加者たちが今後の学びや研究活動を推進する上で貴重な体験となったと思います。余談となりますが、JSTさくらサイエンスプログラムの支援で最初にチッタゴン大学から学生を招へいした2017年 は、自分のPCを持っていない参加者が多かったため奈良女子大学の計算機設備(Linux)を使用しましたが、今回は参加学生全員がラップトップPCを持参しました。バングラデシュは経済的急成長を続けており、学生が自分のPCを持てるようになっていることを実感しました。
学術交流以外の活動としては、奈良女子大学の学生や奈良市地域の市民の方と交流する場を複数回設けました。チッタゴン大学からの参加者と本学学生・奈良地域の市民が英語でふれあい、お互いの日常生活や文化などについて意見交換ならびにフリートークをするイベントです。バングラデシュはまだ多くの日本人にとってなじみがない国のようですが、これらのイベントによりバングラデシュ・日本両国の相互理解がささやかではありますが進んだと感じています。また、英語で交流することで、本学学生の留学意識も高まったと思います。
来日に先立ち、7月6日と7日の午後にオンラインによるプレ授業を実施し、日本訪問の準備、奈良滞在時の諸注意、本プログラムの主旨と授業内容の説明を行うとともに、演習で用いるpythonプログラミングの基礎を確認しました。これにより、来日後スムーズに本プログラムに参加できたと考えています。オンライン交流の普及により、オンラインで最低限の知識のやりとり・議論は可能となりましたが、やはり時間当たりにやりとりできる情報量は対面授業が遙かに上回ります。今回はオンラインのプレ授業と対面授業を組み合わせることにより、参加者たちは効果的に学習することができたと考えます。
本事業の支援によるチッタゴン大学からの招へいは今回で6度目となります。今年度は新型コロナ感染症関連の入国制限がほぼ無くなったことにより、世界的流行が始まる以前の実施形態で無事にプログラムを実施・終了することが出来ました。チッタゴン大学側では本事業が広く認知されており、過去の本プログラムに参加した学生の何名かがバングラデシュの大学で教鞭を執るなど、本プログラムの実施によりバングラデシュにおける数理科学分野の高度人材育成に貢献できたと考えています。本プログラムを支援していただいたJSTに厚く御礼申し上げるとともに、今後とも、さくらサイエンスプログラムを今後も継続して頂けることを強く希望します。