2022年度 活動レポート 第181号:名古屋大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第181号 (Cコース)

多様性と包摂性のある〈アジア〉をつくる未来の法律家のためのセミナー

名古屋大学からの報告

 本プログラムへの支援を受けて、名古屋大学の法学研究科と法政国際教育協力研究センター(以下、CALE)は、2023年2月、タシケント国立法科大学、モンゴル国立大学、ハノイ法科大学の法学部3年生を選抜し、合計19名を本セミナーへ招へいしました。彼らは現地の大学で法学を学習すると同時に、日本語と日本法を2年程学習しております。

1)法に関する基本的な考え方に関連したテーマに基づいた講義の受講および日本人と受入学生によるグループディスカッション

 本プログラムでは、次のような講義や演習を提供しました。

  • ①「刑事訴訟法からみた人権」
  • ②「弁護士業務から見た人権擁護の現場」
  • ③「土地問題から考える民主主義・立憲主義」
  • ④「民法から見た法の支配」
  • ⑤「企業のコンプライアンスから見た法の支配」
  • ⑥「民事訴訟法 手続きから見た法の支配」

 この研修は、未来の法律家の養成を目的としております。法律家にとって大事なことは、法制度をその目的や歴史性に照らして批判的に評価する能力です。こうした能力があって、変化する状況に対応する形で法制度を運用することができます。
 このプログラムで受け入れた学生の出身国は、(旧)社会主義諸圏であり、その法制度や歴史は日本とは大きく異なります。また、他の(旧)社会主義圏の国の制度とも比較することによって、招へい学生は自国の制度から距離を置いて観る視点を養います。同様の効果は、招へい学生と交流する日本人学生にとってもあります。

 上記①「刑事訴訟法からみた人権」では、刑事訴訟法ゼミに属する日本人学生が、刑事裁判を招へい学生に講義し、討論するという形式をとりました。日本人学生は日本で学習した基本的知識(「逮捕」「令状主義」)を教えようとするものの、前提があまりにも違うので、しばしば講義が中断され、前提を確認するべくサポートする教員も交えての情報交換の議論になることがありました。その国で生活すると、ニュースなどを通じて、刑事裁判についてのイメージを形成し、そのイメージが所与の前提となってしまいます。この前提は、自国だけで学習しているとなかなか相対化できません。この講義・討論によってそうした前提を見直すよい機会になりました。

 また、上記③「土地問題から考える民主主義・立憲主義」では、「財産権の保障」についての各国の憲法の条文を比較するという演習を行い、日本人学生と招へい学生が双方に意見交換を行いました。財産権についての日本国憲法の規定(29条)は極めて簡素です。たとえば、モンゴル憲法では、「家畜は国の富」(5条5項)と規定されております。モンゴルの学生がこの規定は家畜がモンゴルでいかに大切に考えられているのかを示す規定なのだと語ってくれました。また、ウズベキスタン憲法では、銀行預金の秘密の保障が規定されております。社会主義国の時代、銀行は国家が運営しており、銀行預金の内容が国家に把握されてしまうので、誰もお金を預けなかったという反省から来ていると、ウズベクの学生が説明してくれました。この演習のおかげで各国の憲法典がその国の歴史をいかに背負っているのかを具体的に知ることができました。

活動レポート写真1

2)法関係機関の社会見学

訪問先
 名古屋地方裁判所、名古屋刑務所、株式会社十六銀行、TMI法律事務所

 このプログラムでは、法が実際に運用されている現場を訪問し、見学することも実施しました。座学だけでは見えないことが、現場の人びとや現場の施設で見えてくることもあるからです。
 まず、事前に訪問先のことについてリサーチし、簡単なレポートを書かせることを行いました。そのレポートでは、日本の裁判所がホームページを有していることに驚いている学生もいました。そのレポートの執筆者の国の裁判所では、ホームページはなく、そこにおける情報提供もないということでした。
 また、実際に訪問した際にも、裁判所や刑務所の職員からの説明を受けて、どのように人権に配慮しているのか、また、どのように法が運営されているのかの様子を具体的に建物の様子を見ながら学習することができました。銀行や法律事務所でも、銀行員や弁護士から講義を受けつつ、日本の銀行や法律事務所のあり方を具体的にうかがい知ることができます。こうした映像的な記憶はすぐに言語化して反省的に捉えなおすことは難しいかもしれませんが、確実に脳裏には焼き付いており、学習しているときの大きな助けとなります。

3)自国の法的問題についての研究発表

 また、招へい学生たちに発表の機会を設けました。以下が、発表テーマ一覧です。

テーマ一覧
モンゴルへの輸入車に課される税金の問題/ウズベキスタンにおける共同正犯の問題/ウズベキスタンにおける環境委員会の職務と機能における既存の法における問題点/モンゴル民法における贈与契約の条文解釈に関する問題/ウズベキスタンにおけるプライバシーや個人情報に関する問題点/ベトナムにおける P2P レンディンの規定の法制化/ベトナムにおける定型約款に係る取引における消費者の利益/モンゴルでのアパート売買契約の際に生じる面積が契約上と実際で一致しない問題/モンゴルにおける未完成建築物の登記に関する問題/モンゴルにおける子供の土地所有権の無償取得に関する問題/ウズベキスタンにおける建設分担契約の消費者における問題点/ベトナム労働法におけるグラブバイクの運転手が労働者になる問題/ベトナム労働法における児童労働の撤廃に関する規定の問題/ベトナムの障害者雇用問題/ベトナム労働法における女性労働者の権利保障に関する規定の問題/モンゴルの政治的指導者の職権濫用罪の刑罰の問題/ウズベキスタンにおける車の盗難に関する問題/ウズベキスタンにおける犯罪の結果として生じた物的および道徳的損害補償の問題点/ベトナムのセクハラの犯罪化

 この発表には、名古屋大学大学院生、学部生、法曹関係者など含め85名が参加しました。参加者が発表者に質問を投げかけ、発表者が答えるという形式です。司会は名古屋大学の大学院生が行いました。
 たとえば、モンゴルの学生は、中古車をモンゴルに輸入する際の税率というテーマで研究しておりました。そのようなテーマを選択した背景を伺うと、税法的な関心ではなく、環境問題への考慮からだそうです。そこで、ある行政法の先生が、中古車の輸入税率を考えるだけではなく、環境法という大きな枠組みの中に研究を位置づけた方がよいのではないかというコメントをしました。このようなやりとりにより、各学生は、自分の研究を今後どのように深めていくのかの視点を獲得することができます。

4)ホームステイによる日本の社会と文化の体験

受入地方自治体
 一宮市国際交流協会、幸田町国際交流協会、大府市国際交流協会、かにえ国際交流友の会

 受け入れ学生は2日ほどホームステイの体験も実施しました。法は、具体的な生活の中で運用されております。社会見学もそうですが、(たとえ短い期間であっても)そのような具体的な生活の中に身を置いてみないとわかりません。
 たとえば、環境問題に関心のあるウズベクの学生は、日本の家庭のごみ出しの仕方に関心を示しておりました。ゴミ出しといっても、ゴミ出しの場面だけを見ればよいわけではありません。スーパーでどのような買い物をし、調理をして、ごみを廃棄するのか、その一連のプロセスで気づくこともあります。
 ホームステイ先でさまざまな質問をし、受け入れてくださった方々が丁寧に答えていたことは、実施者にも十分に伝わってきました。すべての学びの内容を把握できるわけではありませんが、多くの学びを得たことと推察されます。

●今後の展望

 この短期セミナーに参加した学生から選抜を行い、2023年9月より1年間名古屋大学に長期交換招へい学生として受け入れを行います。名古屋大学法学部生とともに日本語で日本法の授業を履修し、さらに多くの時間をかけ日本人学生や他の招へい学生と日本を含めた各国の法制度について学び、相互理解を深めていきます。
 将来的には、彼らは各国において弁護士、大学教員、官僚、会社の法務部門スタッフとなっていきます(名古屋大学の法学研究科に招へい学生してきた者の中には、母国で大臣、外交官、最高裁判事になった方もいらっしゃいます)。
 そのような彼らに以上のようなプログラムを実施していくことは、「多様性と包摂性のある社会で活躍する法律家」の育成につながっていくことになります。また、彼らは、日本に対しても、大きな学びの機会を与えてくれていることも確かです。

活動レポート写真2