2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第154号 (Bコース)
建造物の健全性診断のための分布型ブリルアン光ファイバセンサの高速高精度化
東京農工大学大学院工学研究院
田中 洋介研究室からの報告
2023年1月30日から2月12日までの14日間、マレーシア国民大学の大学院生Intan Fatimah Sasila Binti Ghadzaliさん、ならびに教員のMohd Saiful Dzulkefly Bin Zanさんの2名を受け入れ、共同研究プログラムを実施しました。
研究テーマは、「建造物の健全性診断のための分布型ブリルアン光ファイバセンサの高速高精度化」です。光ファイバは、光通信で使われる髪の毛ほどの細い光の通り道ですが、今回の研究は光ファイバを温度や歪みを計測するセンサとして活用したシステムにおいて、その機能を向上させることに関する基礎検討です。光ファイバは細いだけでなく、軽く、柔らかいので、建物やトンネル、橋などに埋め込んだり、貼り付けたりしても、これらの構造物自体には影響を与えることがありません。センサとしての光ファイバを構造物に組み込めば、異常な歪みや温度上昇がないかが診断できるようになります。研究を進めた光ファイバセンサは分布型と呼ばれるもので、光ファイバに沿った任意の点の温度や歪みが計測できます。このようなセンサは、自然災害の多いマレーシアや日本では、災害につながる小さな異常を早期発見するのに特に有用です。
マレーシア国民大学では、これまで特に光ファイバの長手方向に沿って出来るだけ細かく測定点を区切って温度や歪を計測できるような方法について検討してきました。これにより、変化が起きた場所をより正確に特定できるようになります。一方、私たちは温度や歪みを出来るだけ速く、正確に計測する方法を研究し、そのための実験を進めてきました。そこで、今回のプログラムでは、双方の技術を融合して、センサの性能を高める基礎研究に取り組みました。
2名の来日後は、まずは互いの研究内容をスライドを使いながら紹介し、その上で、目標実現に向けたディスカッションを進めました。特に、実際に対面で実験系を動かしながらの検討を行うことで、具体的なシステムの実現につながる知見が得られたことは大きな収穫です。
滞在期間中、2名は研究室での実験、ディスカッションの他に、学内見学、および国内で私たちが共同研究を行っている埼玉大学塩田研究室を訪問し、日本の研究者との交友関係を広げると共に、研究に関する知識を深めることができました。埼玉大訪問日は前日の予報では午後になるにつれて大雪になることが懸念されていたため、気象情報に注意して当初の計画よりも早い時間帯で行動しました。幸いにして往復の行程では大雪やそれによる被害はなく、無事に訪問、見学、ディスカッションを行うことができました。雪のないマレーシアからの2名にとっては、雪もまたよい経験となったようです。
2週間の滞在期間中、2名は研究室の学生たちと英語で会話をし、両国間の文化交流も行うことができました。そして、このような充実した日々の中で、プログラム期間はあっという間に過ぎました。ご支援をいただきました「さくらサイエンスプログラム」、ご協力いただきました本学の事務職員の皆様に深く感謝いたします。