2021年度活動レポート(一般公募プログラム)第040号 (オンライン)
オンラインによる国際交流のススメ
早稲田大学人間科学学術院
教授 浅田 匡さんからの報告
2021年度はコロナ禍の影響のため、招へいプログラムの変更を含め、3回のオンラインによるプログラムを実施した。交流校は、フィリピン モンティンルパ市立大学(CDM)およびタイ パンヤーピアット経営学院(PIM)である。オンラインでは施設等の見学は制約があるため、プロジェクト型の学習交流プログラムを実施した。CDMは工学部だけの単科大学であり、早稲田大学人間科学部との交流は学際的な課題が必要であったため、「科学技術は人間を幸せにするか?」をテーマとした。また、PIMとの交流は2回行ったが、1つは「多様性とインクルージョン」をテーマに、主として経営学部の学生との交流を行い、あと1つは「食の安全と環境問題の解決への科学技術の活用」をテーマとした。
①交流活動の特徴
3つのプログラムに共通する特徴は、プロジェクト型の学習交流である。学習を成立させるために、課題の設定、具体的な事例を含めた講義、文献紹介、グループによるケース・スタディ、学習成果の発表というプロセスを構成した。例えば、CDMとの交流では「科学技術は人を幸せにするか?」を課題とし、歩行の研究と高齢化の問題解決に関する講演とユニバーサルデザインを含め高齢者がアクセスできるデザインのあり方についての講演“Positive computing”をCDMの学生が発表し、「アート思考とものづくり」については早稲田の学生が発表し、それらを踏まえて5グループ別にそれぞれの国でのケースを取り上げ分析し、その成果を発表した。
この一連のプロセスでは「どのような役割分担を行い協力していくのか」といった協働の意義を学生が経験していることも特徴である。グループ活動を円滑に進めるために、TAの果たす役割は大きかった。ネット上での協働を支援するソフトウェアの紹介、多様な視点の提供や心理的な支援などが主な役割であった。プロジェクト型の国際交流プログラムでは、課題設定に始まる学習プロセスの構成と、それを支えるTAの活用が不可欠であることが実感された。
②プログラムの成果
3つのプログラムとも参加者の評価は高かった。それぞれの学生の専門と関連づけた課題設定あるいはプロジェクト設定を行ったことによって、参加した大学教員からは今後の学習や仕事の選択に関して、より学際的な視点から考えられることが期待されること、また国際分野への視野の広がりが期待されることといったコメントがあった。
CDMとはこのプログラムの実施から箇所間協定の締結へと展開し、2022年度は招へいプログラムの申請に至った。また、PIMとは既に箇所間協定を結び、学生間の交流を行ってきたが、PIMの附属高校の生徒からの参加要望もあり、交流が高大連携へと広がっている。参加した高校生からは、日本への留学希望者も出てきている。さらに、テーマの1つに“Diversity Management”を取り上げたこともあり、日系企業もしくは日本での就職などを考える学生が出てきたことは、これまでの交流活動の積み上げの成果の一つと思われる。
食の安全と環境問題については、はじめてPIM教員による講演を実施した。そのためPIMの本プログラム参加者以外から、水の再生利用および食の安全に関する講演の聴講希望が約100名あり、オンラインの利点を活かして講演のみ聴講させたが、このような交流をさらに活性化することにつながったと考えられる。オンライン交流は、交流活動を広げていく契機としては有用な方法であることが実感された。
③今後の展望
2021年度に実施したオンライン交流は、CDMあるいはPIMと早稲田大学との間での交流授業が実現できる可能性を示したと考えられる。例えば、CDMは工学部の単科大学であり、早稲田大学の社会科学、人文科学あるいは生命科学との連携により、現代的課題解決をめざした講義の設置など、互いに補完し合うことができるのではないかと思われる。同様に、PIMとも経営学、農業管理、食品管理といった分野と人間の心理や行動とを結びつけた講義の設置が可能である。これらは、新しい研究交流を生み出すことにつながると思われるので、現在締結している箇所間協定に基づき、学生交流から研究交流へと展開していくことが期待される。
PIMとの交流プログラムでは高大連携の可能性も示されたので、オンライン交流をベースとした高大連携を進め、留学等につなげていくこと、そのために2022年度からスタートする早稲田大学人間科学研究科英語修士プログラム(EDICS)を学部レベルまで展開していくことも考えていくことになると思われる。
最後に、さくらサイエンスプログラムによるオンライン交流は、参加者の学習だけでなく、これからの大学教育の展開にもつながる契機となったと思われ、JSTをはじめとする関係者、協力者の皆様に深く感謝するとともに、オンラインによる国際交流をおすすめしたい。