2019年度活動レポート(一般公募コース)第435号
現代都市居住におけるランドスケーピング手法、とくにグリーンインフラの研修
芝浦工業大学
清水 郁郎さんからの報告
芝浦工業大学建築学部では、さくらサイエンスプログラムによる助成のもとで、2020年2月21日から3月1日まで、タイ国立メージョー大学建築環境デザイン学部とチェンマイ大学建築学部を招へいして、国際交流プログラム「現代都市居住におけるランドスケーピング手法、とくにグリーンインフラの研修」を実施しました。
1.趣旨
新型コロナウィルスの感染拡大により延期が決まりましたが、東京では近年、オリンピック・パラリンピックに向けて着々と整備を進めてきました。しかし、大会期間中の暑さ対策が最大の課題の一つとなっています。この対策の一つに、街路樹や公園など都市の緑地の増加があげられますが、こうしたグリーンインフラの概念は、今回のオリンピックだけに限らずより広く地球の環境変動に対応する手法として社会実装することが求められ、グリーンインフラを含んだランドスケーピングを洗練、確立することが必要となってきます。本プログラムでは、こうした考えに基づき、グリーンインフラの先進地のひとつである東京を中心とする大都市のランドスケーピングの実際を、緑地公園や親水公園の整備、環境共生などの生態環境利用に着目しながら研修し、その理解を深め、参加国への技術的、思想的移転を参加学生が積極的に行う素地を醸成することを目的とします。
招へいする両大学は、タイ王国北部のチェンマイ県にあります。チェンマイは13世紀に始まり、19世紀に現在のタイ王国に併合されるまで存続したランナータイ王国の王都で、城壁で囲まれた古都は美しい景観で知られ、今日までモンスーンアジアの生態系に根ざした往時の宗教的王権都市としての姿を保ってきました。また、チェンマイ平野は豊かな水系に支えられた大穀倉地帯であり、高度な灌漑システムを発達させながら今日まで食料と水資源の供給地でした。しかし、近年、古都内部と周辺では激しい観光開発が続き、豊かなグリーンインフラの商業施設への転換が進みます。一方、チェンマイ郊外では、伝統的な水稲耕作からコーン等の単一換金作物栽培への転換が進み、焼畑による深刻な煙害や文化的景観の激変が大きな問題になっています。
2.参加者
芝浦工大から9名、メージョー大学建築環境デザイン学部からスタッフ1名、学生7名、チェンマイ大学建築学部からスタッフ1名、学生6名の合計15名を招へいしました。
3.活動内容
①生態環境の特徴を踏まえたランドスケープの事例把握
東南アジアのモンスーン気候は季節の変動が激しく、1年は明確に雨季と乾季に分かれます。一方、日本は湿潤でありながら寒暖の差が激しく、多くの民家形式が発達しました。本プログラムでは、最初に、こうした生態環境の違いにより、居住空間の違いがどのようにあらわれるのかを議論し、学生間で共有しました。
②水域と親和するデザイン手法の習得
東京は古来、沿岸部で水と親和性の高い居住文化が発達していました。本プログラムでは、江東区古石場や木場、門前仲町、中央区佃島などを事例として巡検を行い、また、近年、大規模なウォーターフロント開発が進む豊洲や台場などを見学しました。東京湾沿岸部では、運河利用とも関連するかたちで多くの親水公園が整備されてきましたが、それらのうち江東区にある親水公園を中心に訪問し、実測や水域面積、緑地率などの指標から機能性を検証し、さらに都心における防災緑地としての意義も検証しました。
③植生利用によるランドスケーピング手法
東京駅グランルーフ、大手町の森、六本木ミッドタウン、GINZAシックス、銀座東急、日比谷ミッドタウン、日比谷公園など、大規模な再開発地区や都市緑地、屋上または壁面緑化を伴うオフィスビルや商業施設の研修、街路空間の緑化の見学などを実施しました。
④高密度集住地区、中央区月島におけるランドスケーピングサーヴェイと
それに基づいたグリーンインフラのデザイン、緑化手法の提案
日タイの混成グループで、月島において伝統的街並と住宅のサーヴェイを行いました。タウンスケープと住宅それぞれについて3つずつのデザインリソースを探求し、それを実際の提案に取り込むという演習です。1日をかけたサーヴェイの後、2日をかけてデザイン案を作成しました。共通言語の英語を使いながら、どの班でも積極的に自分の意見を述べ、また、相手の意見を聞き、ディスカッションする光景がみられました。各班の提案は完成度が高く、議論も白熱しました。2日という作業時間を考えると、学生たちは個々の力をよく集約させ、密度の濃い提案を作成しました。
今回のプログラムは、新型コロナウィルスの感染拡大初期にあたり、開催も危ぶまれましたが、万全の注意を払って研修を行い、結果的に成功に導くことができました。タイの学生はよく集中し、高い創造性や適応力を示しました。互いの交流、異文化体験という意味でも実りの多い経験でした。今後も継続して同様の活動を続けたいと思います。