2019年度活動レポート(一般公募コース)第428号
マレーシアの学生が人口減少・安定成長下での建設工学のあり方について学ぶ
鹿児島工業高等専門学校からの報告
1. 背景および目的
2018年、本校はマレーシア工科大学と国際会議3rd ISEEDを共催しました。その際、建設コンサルタント大翔がマレーシア人の学生を対象に行ったアンケートによれば85%が卒業後は日本の建設コンサルタントで働きたいと回答しています。大都市圏に比べ地方は給与水準が劣るものの、やがてはマレーシアも直面する恐れがある少子化・安定成長による地方の厳しい財政下での社会資本整備の技術を学ぶことができるという長所があります。このことを強調すれば、マレーシアをはじめとする東南アジアの技術者が技術の習得を目的に日本の地方都市での就職を希望し、喫緊の課題である地方における人材不足の解消が期待できます。このプログラムでは、マレーシアの中でも優秀な人材を輩出してきたマレーシア工科大学の学生を対象に鹿児島における社会資本整備の状況を紹介し、厳しい財政下の社会資本整備の技術について関心を持ってもらうことを目的としました。
2. 内容
まず、日本人の同じ世代とのコミュニケーション能力の向上を目的として、本校学生との7人程度の混成チームを3つ作り、PBLの手法を通して、ストローを用いた高さ1mのタワーを作成し鉛直方向からの載荷によって強さを競わせました。次に、地元の建設コンサルタントおよび橋梁メーカーから構造物の健全度調査や長寿命化の手法、保守点検が容易な設計が紹介されました。また、災害が多発する鹿児島の現状を知ってもらうため、鹿児島大学工学部海洋土木工学科の津波実験施設や桜島ビジターセンターを見学しました。日本の伝統的な集落の形の一つである知覧武家屋敷、鉄道ターミナル周辺の開発の様子を見学するための鹿児島中央駅付近の散策など、我が国地方都市の中世および現代の都市計画も学べるよう配慮しました。さらに、我が国の近代産業の起こりを学べる尚古集成館、理科の現象を体験できる鹿児島市立科学館見学も研修コースに含めました。
3. 効果
PBLに先立ち、本校学生との交流会が持たれました。マレーシア工科大学の学生は民族衣装を纏い、マレーシアに伝わる単純にもかかわらず思考が必要とされるゲームを紹介しました。このゲームに本校学生は興味を持ち、その後のコミュニケーションも円滑に行われPBLの効果を上げることができました。建設コンサルタント、橋梁メーカー、鹿児島大学では本研修のテーマである厳しい財政下の社会資本整備のみならず、マレーシアにおいては経験することのない地震に対する検討に興味が湧いたように見えました。
4. 今後の展望
マレーシアにおいては、国民の生活水準の向上に応じた社会資本整備や、国内で頻発する水害や斜面災害への対策が現在の土木工学の対象です。今回の研修を通し、我が国の地方における厳しい財政下での生活水準の維持のための社会資本整備を学ぶ意義を見出せたものと思われます。彼らが卒業後、鹿児島での就職を志望したときに、産学および県内にある自国のコミュニティが連携して受け入れ態勢を整えることが今後の課題となります。