2019年度活動レポート(一般公募コース)第398号
日台スピン物性科学連携を目指した最先端物性評価実験の体得
九州大学からの報告
この度、令和元年11月29日から12月5日までの7日間、国立台湾師範大学の大学院生及び若手研究者を、物性物理学実験の研究体験の目的で10名を受け入れました。
台湾師範大学は10学部を有する総合大学で、学生総数は約10,800人、教職員数は約1,900人で比較的規模が大きく、台湾を代表する研究大学として近年急速に成長しています。今回の対象分野である物性物理学分野に関しては、近年、磁性研究に力を注いでおり、アメリカやドイツで学位取得や博士研究員を経験したグローバル化に対応できる有能な若手教員が相次いで着任しており、気鋭の若手研究者や向学心溢れる学生らが、日夜、研究に励み、一流国際誌に成果を発信しています。
今回、訪日した大学院生らの研究室では、磁性薄膜の実験研究を展開されており、そこでは、薄膜の作成手法や合成する材料などに新奇性を持たせ、特徴ある磁気特性を持たせることに成功しています。一方で、九州大学における磁性薄膜の研究に関しては、物理学部門の固体電子物性研究室を中心に精力的に行われており、そこでは単なる磁気モーメントの静的な評価だけでなく、より詳細な結晶構造解析やスピンの動的挙動の解析、さらには、具体的なスピンデバイスの試作などが可能です。そこで本プランでは、師範大学の大学院生らに、九州大学に短期滞在し、上述の最新鋭の物性評価装置を実際に見学し、且つ自らが台湾で作成した磁性薄膜の物性評価を九州大の大学院生らのサポートのもとで遂行し、一連の磁性薄膜の物性評価の流れを理解してもらうことを目的としました。
到着翌日には、両大学の大学院生を中心とした物性物理のミニワークショップを行い、互いの研究シーズを確認しあいました。また、近隣の大学にも参画して頂き、日台の交流を深めることができました。夜には、懇談会を開催し、とりわけ、大学院生同士の親睦が深まりました。翌日は、日曜日でもあったので、福岡県の代表的な施設を見学して頂きました。
その後、4日目より本格的な実験が始まりました。超高感度磁力計を用いた磁化特性評価、X線を用いた結晶構造解析や原子間力顕微鏡による表面の微視的構造、加えてベクトルネットワークアナライザーや高速デジタルオシロスコープ等の高周波機器を用いた磁化の動的特性(スピンダイナミクスの評価)などなど、限られた時間ではありましたが、師範大学で作成された試料を様々な角度から評価することができました。特筆すべきは、これらの実験を、両大学の大学院生同士で遂行した点です。お互いに母国語ではない英語を通しての会話でしたが、参加した学生は、皆、大変積極的に交流できたと思われます。
本プランを皮切りに、師範大学からの各種実験装置の利用がより頻繁に行われることが期待され、互いのシーズを活かした共同研究の提案なども現実化しています。今回の交流が、師範大学の研究水準の更なる向上と、九州大学の教育研究におけるグローバル人材育成にも貢献することを確信しています。