2019年度 活動レポート 第344号:静岡大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第344号

富士山周辺の森林生態系で環境保全と生態系調査法を学ぶ

静岡大学からの報告

令和元年10月3日~10月12日までの期間、静岡大学農学部地域フィールド科学教育センター森林生態系部門では、“Field seminar in temperate forests around Mt. Fuji”を開催しました。静岡大学は暖温帯の森林から樹木限界の森林まで多様な森林がアクセスよく観察できる条件に恵まれていて、異なる国の学生が日本の多様な森林生態系の保全方法や森林生態系調査方法について学ぶことを目的とするこのフィールドセミナーには最適です。

今年の参加メンバーは、さくらサイエンスプログラムにより招へいしたASEAN地域4カ国6大学(タイ:カセサート大学、マレーシア:プトラ大学、インドネシア:ガジャマダ大学、ボゴール農科大学、アンダラス大学、ベトナム:ベトナム林業大学)の10名の学生と当センターが自費で招へいした2か国2大学(チェコ:メンデル大学と中国:南京林業大学)の2名及び三重大学・筑波大学・新潟大学及び本学の大学院学生修士学生27名です。10月3日に来日後、翌4日からコースを開始しました。

10月4日:静岡大学農学部地域フィールド科学教育センター天竜ブランチ(以下、天竜ブランチ)

午前:日本における野外学習上のフィールド安全対策(マムシやスズメバチ、マダニなどの危険動植物に関する基本情報)についての講義のあと、日本の森林生態系を植生タイプごとに紹介し、それぞれの森林帯の抱えるトピックについて講義を行いました。

午後:「生態系サービスと林冠構造とくに葉の三次元分布の関係」についての講義を行いました。その後、ブランチ内の森林に出かけ、「人工林の生態系修復方法及び小規模林の持続的森林管理手法」について見学しました。ここでは人工林のギャップ構造と鳥による種子散布の関係について学び、さらに2ヘクタール未満の生態系に配慮した異齢林造成法について学びました。見学途中にムササビの飛行の様子を全員が目にすることとなり、人工林生態系修復の議論に花を添えました。夕食後は、各国の森林生態系の紹介をしあう時間としました。

人工林内での自然植生の保全

10月5日:天竜ブランチ

午前:「先駆種と遷移後期種の光合成速度の測定とクロロフィル蛍光について」の実験と「動物の生息地としての森林の評価・哺乳類の最適採餌理論」の実習をブランチ内で行いました。

午後:ブランチ内の照葉樹林天然林でその生態を学びました。さらに参加学生それぞれの研究成果のポスター発表会を催しました。

哺乳類の行動 倒木の利用行動を調べる
照葉樹天然林の生態調査

10月6日:天竜ブランチ

午前:「樹液流速の測定手法」と「動物の種の分布と生息地選択のモデリング」について実験実習を行いました。

午後:静岡県農林技術研究所森林林業研究センターで、マツザイセンチュー抵抗性育種の現場と閉鎖式スギ採種園の現場を視察しました。

抵抗性クロマツ、ザイセンチュー接種試験苗畑の観察

10月7日:浜松市秋葉ダム・川根町茶茗館・静岡大学農学部地域フィールド科学教育センター南アルプスブランチ

午前:「天竜地域の山岳生態系のジオツアー」と題して、船明ダムの見学を通じて、森林生態系と水文学的情報の関係を野外講義しました。

午後:南アルプスブランチへ移動中、島田市から川根本町にかけての森林と茶畑が配置された景観を車窓から観察したのち、茶茗館にて「静岡の茶生産と茶文化」を学びました。南アルプスブランチでは多様性の高い温帯性落葉広葉樹林を観察しました。

10月8日:南アルプスブランチ・静岡市

午前:付加体山岳地における大規模崩壊と、その斜面修復について南アルプスブランチにおいて講義と見学を行いました。

午後:種多様性と生態系機能の関係を調べる研究サイトを見学し、その研究方法について学びました。さらに南アルプスブランチでは2016年にスズタケの一斉開花枯死が生じており、そのイベントが生態系に及ぼすインパクトについて学びました。

10月9日:富士5合目、高鉢駐車場

富士5合目において樹木限界の生態系を観察しました。樹木限界の上昇の秘密や、限界地での森林の分布の決定要因あるいは強風ストレスに対する樹木の適応について学びました。また、冷温帯と亜高山帯の境界のエコトーンやブナ林の森林構造について観察しました。

富士高鉢駐車場付近にて
冷温帯と亜高山帯のエコトーンの観察

10月10日:富士吉田市

富士吉田市にある国立環境研究所が管理するカラマツ林サイトで、先端的な森林生態系のガスフラックスに関する研究手法を学びました。また青木ヶ原樹海では溶岩上に発達した温帯針葉樹林の生態系を学びました。

森林のCO2ガスフラックス測定の観察

10月11日:静岡大学キャンパス

当初は三保海岸のクロマツ林について、海岸防災としてのクロマツ林の役割及びクロマツ林の保全のためのボランティア活動について学習する予定でしたが、大型台風接近で交通機関の乱れが予想されたため、急きょ午前中キャンパス内でのリモートセンシング利用に関する講義と認証式を行いました。その間スタッフは航空機の予定変更やホテルの追加宿泊など、キャンセルおよび予約の仕事に追われました。当日は混乱の中この作業は困難を究めましたが、全員を11日夕刻までには羽田・成田近くのホテルに送りました。12日がそれぞれの学生の帰国の予定でしたが、帰国日を早めるあるいは遅らせるなどの対処をとり、無事全員が10月15日までにそれぞれの国に帰国しました。

本セミナープログラムの特徴を一言であらわすと、「多様性への出会い」です。

①富士山のもと、暖温帯から樹木限界まで多様な森林タイプを見学できる。日本の代表的な山岳植生が静岡で一度に紹介できた。

②送り出し大学が多様なため、参加者は多様な文化に根差す学生との交流ができる。さくらサイエンスプログラムを補強する目的で、独自に他の異なる国からの学生を呼ぶ工夫をしている。この多様性を活かすため各国の森林生態系を紹介させている。学習面だけではなく、各国の郷土料理のレシピを持ちより料理を作るという工夫も行っており、こうした点でも多様性の交流を刺激している。

③講義・実習内容も水文学・地形学・植生学・動物生態学・森林構造学・生理生態学・社会科学など多様だ。

大型台風襲来というハプニングの中で、冷静に柔軟に対応できたことと、多様性の出会い、学生同士の密な交流を通じて、学生の本セミナーに対しての満足度は高く、次年度の開催も要望されています。