2019年度 活動レポート 第343号:大阪府立大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第343号

「One World, One Health」実現に向けた日本・インドネシア共同研究プログラム

大阪府立大学 松林 誠さんからの報告

2020年1月22日から2月9日までの19日間、「さくらサイエンスプログラム」の支援を受け、インドネシアのガジャマダ大学から2名の学生(大学院修士課程2年生)と引率教員1名の計3名を大阪府立大学に招き、短期研修を実施しました。本交流計画の研究テーマは、「家畜の重要感染症診断に関わる獣医療技術の習得および食の安全に向けた疾病対策と生産性向上のための共同研究」です。

「One World, One Health (世界は一つ、健康は一つ)」実現に向けた活動の一環として、日本およびインドネシア2国間の獣医系大学の学生と共同研究活動を通じて学術交流を行い、今後、両国の生産現場における衛生環境の理解を深め、その改善対策を両国の研究者で実施するために必要な疾病基盤情報の構築を行うことがねらいです。研究活動は、大阪府立大学大学院 獣医学専攻、獣医国際防疫学教室および獣医病理学教室、そして今回、協力支援を頂いた北里大学獣医学部の獣医寄生虫学研究室と人獣共通感染症学研究室の合計4研究室において行われました。

19日の滞在期間中、前半の12日間は大阪府立大学において共同研究活動を実施しました。具体的には、6日間は家畜の消化管に寄生して下痢等を引き起こす原虫の診断および種の同定解析、また病原性評価方法の習得、そして、後半の4日間は家畜の組織切片を用いて寄生虫の病理組織学的診断および病態解析を行いました。インドネシアでは日本と比較して寄生虫感染は未だ重要な感染症であり、同国においても実施可能な解析手法を学ぶ事により、今後、両国共同で調査研究を実施していくことも協議しました。

牛、豚そして馬等の産業動物や犬や鳥等の様々な動物の寄生虫性疾患を含めた感染症について、
組織切片を用いて病理組織学的な診断ポイントを解説し、細胞や組織が示す病変とその病理発生のメカニズムについて理論の習得を行いました。加えて疾病発現に関わるその病因や環境要因等の背景について、
疫学的解析法の理解や防疫体制に関する考察を行いました。
感染動物舎での原虫の動物実験の様子です。入室の際には、バイオセキュリティー上の注意点、感染動物の飼育管理におけるポイント、そして原虫が含まれる糞便の採材を行いました。本解析は、野外から検出された原虫の病原性等を評価でき、様々な研究活動への応用として活用できます。

後半の6日間は、活動実施場所を畜産県となる青森に移し、北里大学において動物の血液中に寄生する寄生虫、特に原虫の診断および病態評価解析を行いました。血液中に寄生する原虫は極めて小さいため、顕微鏡観察を慎重に行う必要があります。また、教科書等のイラストや写真との比較だけでは診断や種の鑑別ができない場合もあります。

本研修では、北里大学の専門家に直接、指導を仰ぐことにより、より具体的に自分の観察力の良否を判定することもできました。また家畜の生産性増悪要因、また食品汚染の原因となる細菌感染の理論と臨床診断法についても学びました。畜産現場においては、当然ながら様々な病原体が存在する可能性があり、寄生虫のみならず細菌等、複数の病原体による感染についても考慮し、診断および予防対策にあたらねばなりません。

インドネシアで問題となっている血液寄生原虫の診断法を学ぶため、実験的に感染させたマウスを用いて実際に血液塗抹標本を作製し、ギムザ染色を実施しました。血液原虫の専門家の筏井先生にマンツーマンで観察のポイント等を教えて頂きました。顕微鏡を前にして観察所見について考察し、病態に関する議論を行いました。

さらに、青森では養鶏現場や牛農場から食肉処理に関わる衛生対策について実地研修も行いました。食肉処理過程については、インドネシアとは大きく異なる解体方法を目の当たりにし、食肉加工に関わる衛生理論と応用を学ぶことができたようです。

青森県の家畜処理場を訪問し、専用の白衣に着替え、処理工程を理解し、
さらに検査材料の採取を行いました。
前夜の大雪により新雪の中の移動に皆さん大喜びです。
研究活動のみならず、日本の食文化にも触れました。
和食の食堂にて夕食の1枚です。焼き魚が一番気に入った様子です。