2019年度活動レポート(一般公募コース)第323号
生体系の酸化抗酸化に関与するフリーラジカルの可視化技術の体験と交流
弘前大学
教授 中川 公一さんからの報告
タイ王国のチェンマイ大学大学院の薬学系大学院生2名、コンケン大学大学院の薬学系大学院生3名と学部生2名、カンボジア王国のプラサートバコン高等学校から生徒2名と教員1名、合わせて10名を招き「さくらサイエンスプログラム」A科学技術体験コースで実験できたことは、送り出し機関からの招へい者や受け入れた側にとっても貴重な体験でした。
特に、大学院生や学部生に関しては、これまでの取り組みを参考にして、受け入れ側との研究共通点の多い薬学系の学生を中心に招へいしました。カンボジアの学生は以前から研究交流のあるコンケン大学大学院の薬学系にカンボジアからの留学生が在学していて、抗酸化やフリーラジカルに興味を示していた背景がありました。その後、自国で化学の教師をしているとのことで、今回の高校生の招へいとなりました。
科学技術体験は7日間の短い期間でしたが、事前に打ち合わせを行なっていたので比較的スムーズに試料測定に入ることができました。
実験装置の電子スピン共鳴(ESR)は、タイ王国とカンボジア王国の学生にとり初めての測定装置であり戸惑いがあったと感じました。測定試料に関しては、液体・固体・粘性の高い物などさまざまでした。極めて限られたサイエンスの時間ではありましたが、植物や樹木からの抽出物に存在する不対電子を持つ安定ラジカルを確認することができました。
中には、室温で液体状態から37ºCで転移しポリマー化する化合物の実験がありました。室温と50ºCの温度変化による溶液のポリマー化でプローブ分子の動きが遅くなる現象をスペクトル上で確認できたことは、興味深かったです。
また、自国の大学院で行っている研究テーマに関連するサンプルを測定した学生もいました。さらに、研究背景のない高校生には何はともあれ体験かなと感じました。成果発表では、サンプルの研究背景や自らの研究の抗酸化などを交えて発表した学生もいました。
科学技術交流の合間に日本の文化に触れる機会もありました。週末には市内の歴史ある寺院や公園内にある弘前城を視察し、地方の文化にも触れる機会を設けました。
帰国前日に、東京の上野にある国立博物館を訪れ、日本の歴史的科学技術などに触れることができ、科学文化交流にも役立ったと思いました。東京での団体移動は楽ではありません。電車での移動は、待ち時間がほとんどないのですが、切符の値段(運賃)と購入、改札の出入りに慣れるのは若い彼らにとっても楽ではないと感じました。
このさくらサイエンスプログラムの貴重な機会を通じさらに科学に興味を持ち、勉強し続けることが大切と考え、「Keep studying」と伝えました。彼らの今後に期待したいと思います。「サイエンスにもう少し実験と議論の時間をかけたら良かった」かな、と感じています。