2019年度 活動レポート 第322号:横浜国立大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第322号

カンボジアの鉄道設備の問題点と課題解決手法に関する調査

横浜国立大学
教授 梅澤 修さんからの報告

2020年2月1日から2月6日、さくらサイエンスプログラムによりカンボジア工科大学から8名を招へいし、科学技術交流プログラムを実施しました。

本交流計画で取り上げるテーマ「カンボジアの鉄道設備の問題点と課題解決手法に関する調査」は、カンボジアにおける鉄道敷設、鉄道設備、運行制御、鉄道網整備などに多くの問題を抱えているなか、安全運行に欠かせない鉄道軌道や車両整備の不良改善に向けた最初の取り組みです。軌道および車両と路面の状態をモニタリングして、車両の損傷に至る要因を導く実験手法と評価、不良状況に伴い発生する軌道および車両(いずれも鋼部材)の疲労破壊や面圧損傷、摩耗、腐食といった事象について理解し、課題の認識と改善の方向性を明らかにすることは、今後のカンボジアにおける鉄道関連のインフラ整備と人材育成に必須です。

カンボジア工科大学では、JICAによる研究予算支援(JICA Research Grant for LBE 2019)採択を受けて、「Establishing a platform for studying Cambodian railway track geometry irregularities」のテーマを推進しています。そこで、本交流計画において、カンボジア工科大学の教員と学生が横浜国立大学を訪問して、課題についての認識を深めることを行いました。具体的には、横浜国立大学を訪問しての視察、見学、講義、討議を主体として、鉄道博物館の見学調査、軌道および車両の状態モニタリングについて活発な研究を行っている研究室訪問、専門家を招へいして課題と研究への取り組みなどについての討議です。以下に各日程の内容を列記します。

初日

横浜国立大学常盤台キャンパスにてオリエンテーションを実施しました。到着早々にもかかわらず、皆さん元気でした。

常盤台キャンパスにて

2日目

埼玉県大宮市の鉄道博物館を訪れ、鉄道の歴史・車両安全・運行技術に関する研究開発調査を実施しました。横浜駅より京浜東北線と埼玉新都市交通ニューシャトルに乗車し、駅弁を購入して昼食をとりました。鉄道博物館には日本あるいは世界の鉄道車両が多く展示されており、当時の姿を肌で感じてもらえました。また、鉄道の科学(鉄道の原理や仕組み)や鉄道の歴史・未来について勉強できる場も設けられており、日本における鉄道の安全性と技術の歴史などについて学び、理解を深める一日となりました。

鉄道博物館にて

3日目

横浜国立大学常盤台キャンパスにて、損傷評価の組織解析手法に関する概要講義(担当:梅澤)と金属物理学研究室における研究紹介を行いました。そして、金属材料解析実験設備や先端機器分析装置の見学、横浜国立大学キャンパス案内を実施しました。

金属物理学研究室見学

4日目

日本大学生産工学部機械工学科綱島研究室(鉄道工学リサーチ・センター)を訪問しました。綱島均教授より研究紹介ののち、軌道状態診断センターを見学しました。鉄道の軌道異常を検知するシステムや、軌道状態をセンシングしながらデータ送受信をする計測器としてのスマートフォンの利用などの説明を受け、質疑応答も活発に行われていました。その後、鉄道運転シミュレーターとフライトシミュレーターを体験しました。鉄道運転シミュレーターは、実際に使われていた車両の運転台を使用しており、皆さん楽しみながら運転体験ができました。

鉄道運転シミュレータ体験

5日目

鉄道総合技術研究所、物質・材料研究機構、J-PARCより関係分野の専門家を招へいし、カンボジアにおける鉄道敷設の状況と課題、軌道および車両と路面の状態モニタリング、鉄道設備における破壊や損傷について現状と取り組み方針を報告して専門家らとの討議を行い、課題理解を進めました。最初に鉄道総合技術研究所の紹介を行い、軌道および車両と路面に係わる状況について理解を深めました。続いて、カンボジア工科大学の教員と学生よりカンボジア鉄道計画の動画を含めた以下4件の発表を行いました。

Yi Liv, Establishing a platform for studying Cambodian railway track geometry irregularities
Mesa Mut, Overview of Cambodian railway: past, present and future
Sophy Soun, LBE material presentation weekly
Borey Mon, Estimating vertical profile of railway track using inertial measurement unit

主な質問やコメントとしては、以下が挙げられます。

  1. カンボジアの駅に行く方法は?駅まで遠いとなかなか電車を使う機会がないのでは?
    →採算採れるのか。乗車賃が高くなる。
  2. 日本の鉄道の歴史は長く、システムも少し古いため、日本を模倣する必要はない。
    →GPS,センサーといった新技術を用いることができる。
  3. センサーをどこにつけるかで波形が変わるため、センサーの取り付ける位置が重要。センサーは電車の速度によって、種類も変わる。
  4. 日本より荷重が大きい。枕木に亀裂が入る。どうすればいいか。
    →日本は車体の方がより研究を重ねている。
  5. 点検をどうしているか。
    →点検用の電車を夜中に走らせている。人が点検をしている(カンボジアと同じ)。2ヶ月に1回?
  6. 環境により車体、走路に影響が出る。日本では、雪、灰、雨により、影響が出る。人が通ると、感知するが、雨、雪は感知しないのはなぜか?
  7. 今後の車体に変化はあるのか。
    →デザインが変わるというよりはむしろ交通システム自体が変わるのかも。
討議の様子