2019年度活動レポート(一般公募コース)第321号
さまざまなエネルギーの量子放射線の計測と応用の体験プログラム
大阪府立大学研究推進機構からの報告
さくらサイエンスプログラムの支援のもと、研究推進機構の放射線研究センターが中心となって、ベトナム、ダラット大学(DLU)から 学生7名と教員2名の受け入れを行いました。国際交流課および工学研究科量子放射線系専攻の学生にも協力をいただき、様々な講義、実習、見学、シンポジウムを体験してもらいました。
初日
招へい者一行は新年の帰国ラッシュが残る関西空港に無事到着しました。冷たい雨が降り、時折木枯らしが吹く非常に寒い天候が一行を迎えました。あらかじめ通知していた通り、ほとんどのメンバーが厚めの服装の中、一人だけ軽装の学生がおり、あわてて服を買いに行こうかと申し出たほどでした。ホテルに移動して荷物を預けたのち、近くにある「利晶の杜」を訪ねました。ここでは、近くに生家のある千利休と与謝野晶子の展示を見るだけでなく、茶道の体験も受けることができました。
昼食後、堺市役所の展望ホールから、世界遺産に登録されたばかりの古墳群を観賞しました。その後、放射線研究センターのある府立大学中百舌鳥キャンパス南部に移動し、地元堺の歴史と府立大学についての簡単なレクチャーを受けました。最後に、書初めやたこ焼き体験を含めた交流会で量子放射線系専攻の留学生や日本人学生との交流を楽しみ、ホテルに戻りました。
2日目
放射線研究センターが有する大線量コバルト60ガンマ線照射プールを利用した、水中大線量環境での放射線計測実習の一端を体験しました。実習に先立ち、谷口センター長から放射線研究センターと水中実験に関する講義を受けました。その後、照射施設の管理区域にあるコバルト60ガンマ線照射プールを見学の後、2つのグループに別れ、「水中放射線計測」、「自然放射線の水による遮蔽」の2つのテーマを次々に体験しました。ガンマ線源からの神秘的なチェレンコフ光のイメージを堪能し、カリウム40由来の自然放射線が水で十分に遮蔽されること、そしてそのことから、水中のコバルト60からのガンマ線も安全なレベルまで減衰していることを実感でき、各人がレポートにまとめました。
午後からは秋吉准教授の指導のもと、非弱な自然放射線に関する基本的な放射線実習を行いました。高性能霧箱と天然トリウム線源を用いて放射線の種類と透過率、さらに人体への被ばく影響を学びました。さらに、大気中のラドン由来の放射性物質が室内のホコリに含まれており、これからのアルファ線も霧箱で計測できることを実習しました。霧箱は放射線教育で広く使われており、招へい者の大学でも類似の実習は体験している様でしたが、ベータ線やガンマ線を交えた計測や被ばくに関連した講義は受けておらず、大いに興味をもってもらったようでした。
3日目
招へい者の母校にも訪問経験のある、石井学長顧問を表敬訪問しました。その後、なかもずキャンパスの散策で、春のきざしを楽しんだ後、研究推進機構のBNCTセンターで切畑名誉教授にがん治療の説明と施設の紹介をしていただきました。
午後からは、大気圧プラズマ照射の実習を行いました。大気圧プラズマは放射線に比べてエネルギーが低いものの、同様の化学反応や生物反応を示すことが、最近注目されています。いったん2グループに分かれて大腸菌サンプル(バイオサンプル)とポリビニールアルコール・ヨウ化カリウムサンプル(化学サンプル)の作成を体験してもらいました。その後、本学の留学生が運転するプラズマ源で照射を行い、プラズマジェットや変色した化学サンプルに興味を持った様子でした。
4日目
電車とバスを乗り継ぎ、大阪大学吹田キャンパスを訪問しました。始めは環境・エネルギー工学専攻の村田研究室の強力14MeV中性子工学実験装置(オクタビアン)を見学しました。村田教授には、中性子を用いた研究について、1時間を越える詳しい講義をしていただき、その後管理区域内の加速器と様々なターゲットについて説明いただきました。その後、電気電子情報工学専攻の加藤研究室を訪問し、ECRプラズマ生成型多価イオン源の見学をさせていただきました。招へい者の母校にはない、様々な実験装置を目にして、一行は非常に興味を抱いたようでした。
吹田キャンパスのカフェテリアで昼食を摂った後、モノレールから万博記念公園の太陽の塔を撮影しました。 大阪市内に戻って歴史博物館と大阪城を訪れました。見学時間は限られておりましたが、天守閣閉館の後も ライトアップされた城の写真撮影を楽しんでいました。
5日目
午前中に、量子放射線の博士後期課程のベトナム人留学生が、クルックス管からの低エネルギーX線の研究と、プラズマ照射したバイオサンプルの結果について、母国語も交えてわかり易く解説しました。午後から招へい学生によるプレゼンテーション、及びJSTアンケートへの回答を行ってもらいました。その後、すべての「さくらサイエンスプログラム」招へい者への修了証書の授与を行い、「さくらサイエンスクラブ」への入会を歓迎しました。
6日目
天候も回復し、招へい者一行は研修の疲れも見せず帰国の途につきました。
本事業の実現に当たって学内外の様々な人々の支援をいただきました。また、大阪大学の村田研究室および加藤研究室の皆様には貴重な見学の機会を与えていただき、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。本事業を通してダラット大学、大阪府立大学双方の学生が活発に交流をする貴重な機会が得られました。最後にこの実りある交流の機会を与えていただいた、「さくらサイエンスプログラム」に厚く御礼申し上げます。