2019年度 活動レポート 第244号:産業技術総合研究所

2019年度活動レポート(一般公募コース)第244号

タイ・カセサート大学大学院の修士学生との共同研究プログラム

産業技術総合研究所環境管理研究部門
水環境技術研究グループからの報告

産業技術総合研究所環境管理研究部門水環境技術研究グループでは、さくらサイエンスプログラムの支援を受け、令和元年11月17日(日)から12月7日(土)までの3週間、タイ・カセサート大学の修士学生1名と共に研究を行いました。

タイにおいては農村部における飲料水の残留農薬汚染が問題となっており、修士学生もアトラジンという除草剤を光触媒で分解する研究をタイで行っています。産総研では、このような残留農薬成分等の光触媒分解に地下水など実環境水組成がどのように影響するかの研究を行っており、実験室で通常使われる超純水環境と総溶解固形分を含む実環境水とでは触媒活性に大きな違いが出ることを見いだしています。従って、今回タイの研究室でも使用しているアトラジンの光触媒農薬分解挙動が実環境水組成において現れるのかの確認実験を行いました。

SEM/EDXで光触媒表面を観察

アトラジンは非常に分解しにくい、すなわち残留性の高い農薬として知られています。確かにこの農薬は光触媒分解速度もその他農薬類と比べると桁違いに遅いのですが、超純水とミネラル成分を含む水中においてはその分解挙動が通常の有機物とは異なることを見いだしました。すなわち、ミネラル水中におけるアトラジン分解速度は超純水中より約50%も分解速度は落ちますが、反応中間体として出てくるギ酸濃度はミネラル水中の方が約2倍多いという今までに知られていない結果が出てきました。この現象の解析は継続して行わなければなりませんが、ともかく反応速度の遅いアトラジンを使用した実験でわずか3週間の滞在にも係わらずこのような新たな結果が得られ、研修生の手際の良さが光っていました。

実験風景

今回の来日中は実験だけではなく、光触媒開発メーカーのラボ訪問、また、国際学会における研究発表も行いました。特に、国際学会の会場では光触媒現象を発見した元東京大学教授で前東京理科大学学長の藤嶋昭先生とお話しする機会があったことも研修生にとって大きな刺激になったと思います。

国際学会で研究発表をしています

今回の来日では、ホスト宅にて手巻き寿司やお好み焼きなど日本家庭の夕食を楽しんだり、研究室からも見える世界最大の金銅仏である牛久大仏の見学、また、メーカー訪問の空き時間には名古屋城本丸御殿の見学をするなど日本の文化に触れる機会も多くありました。

ホスト宅にて手巻き寿司を初体験。お気に入りはネギトロ

受入側としては、今まで扱ったことのない高残留性農薬の光触媒処理を行う事で、環境中に放出されると処理が厄介な農薬があることが分かっただけでなく、実環境水中では実験室レベルとクリーンな光触媒反応とは異なる分解メカニズムがあることを改めて確認することが出来、途上国における使用可能農薬の選択や残留農薬により汚染された飲料水の浄化法などについて将来に向けた新たな研究要素が出てきたことをはっきりと認識することができました。

最後の日に研究室にて記念撮影

今回、さくらサイエンスプログラムによる研修制度を利用できたことに対し、JSTの皆様に深く感謝致します。