2019年度 活動レポート 第231号:上智大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第231号

気候変動における資源の共同管理と生物多様性の保全
日本に学び共に地球のために考えることとは?

上智大学大学院地球環境学研究科地球環境学専攻・地球環境研究所
教授 まくどなるど あんさんからの報告

2019年9月21日から10月4日の日程で、コロンビア共和国教皇庁立ハベリアナ大学から、学生・教員合計8名を招へいし、共同研究プログラムを実施いたしました。

東京都大島にてフィールドワーク調査実施風景

来日目的とは?

コロンビアは先住民に対する人権侵害、ヨーロッパによる植民地化、最近においては環境悪化を招いた数十年に渡る内戦など、複雑な歴史を持っており、この歴史の中で沿岸漁業者にはあまり注意を向けられてきませんでした。2017年に和平交渉が成立して以降、コロンビアは小規模な沿岸漁業、零細漁業及び伝統漁業に対し、科学的調査と伝統的文化的価値観を組み合わせた新政策を打ち出し、日本は学ぶ対象として、また新しい総合政策とその実践を基盤とする国として見なされてきました。

この共同研究は理論的かつ実践的に研究手法を共有し、さらに伊豆大島や石川県能登半島の零細漁業に関する現地調査を行うことや、日本から得た知見に基づき、コロンビアにおいて総合政策策定の基礎を築くことが目的です。さらに、この共同研究の広義の目的は小規模漁業コミュニティに対する適応策の可能性を探ることであり、手段として、環境、気候変動に関する観察や日本の小規模漁業者、漁師、特に水面下に潜るゆえ、資源や生物多様性保全にとって重要な海洋生態系の悪化などの変化をより意識しているダイバーの経験を研究することにあります。これは資源の利用、管理、適応の取り組み、適応策に関する疑問に取り組むものです。上智大学と教皇庁立ハベリアナ大学が共同計画した研究目的は、以下の通りです。

(a)気候変動に際しての柔軟性、適応性、レジリエンス確保のための環境政策と漁業政策、経営ツールの探求(漁法、資源回復、禁漁区など)
(b)資源管理アプローチにおけるジェンダーの関連性や文化的アイデンティティの考察
(c)環境意識、資源管理と小規模漁業における気候変動適応策の連携の考察
石川県輪島市舳倉島フィールドワーク調査

内容とその意義について

増え続けるグローバルな環境問題は、気候変動による影響や生物多様性損失につながる資源悪化の流れを逆転させるために、その地域に特化した包括的なアプローチ適用の必要性を迫っています。日本とコロンビアは生物多様性ホットスポットとして科学者により認定されていますが、両国の生物多様性の豊かさは気候変動により危機に瀕しています。例えば日本では気象庁が近年の研究結果を公表しましたが(2019年3月)、日本の沿岸地域の平均水温は世界平均の2倍の速度で上昇しており、今回の調査現場である舳倉島、石川県能登半島が位置する日本海においては世界平均の3倍です。日本は気候変動の前線に立つ国でありますが、一方では現代科学と伝統知識を統合することを目的とした学際的研究における前線に立つ国でもあります。

本プログラムでは、日本の事例から社会生態学的、文化的関連性を持つ科学的知見を基に、小規模漁業に対する持続可能な解決策の開発を進めることです。プログラムは二部より構成されており、第一部では、上智大学四谷キャンパスにて、日本における環境歴史学及び環境影響アセスメント、資源管理などの現代科学や政策に関する講義が行われました。講義は対話形式にて行われ、専門家による講義後、上智大学地球環境学研究科と教皇庁立ハベリアナ大学の学生が参加し、両大学の学生、教授によるディスカッションが行われました。

上智大学にて地球環境学研究科の学生との意見交換会

第二部では現地調査を行いました。伝統的漁業地域における資源の共同管理と生物多様性保全への日本のアプローチに対する理解を深め、資源管理アプローチと総合政策の可能性を考える上でのジェンダーの関連性と文化的アイデンティティに対する新しい観点を獲得するため、伊豆大島と輪島、舳倉島を訪問しました。伊豆大島と輪島、舳倉島での調査により、これらのトピックを資源の共同管理が適合している日本海、そして太平洋の視点から探求することができました。しかし、日本の環境状態や異なる海洋生態系により両国に差異は生じてしまいますが、こうした差異がコロンビアに適用できる場所や状況に特化した政策の開発について見識をもたらすものと考えております。

石川県輪島市舳倉島にて海女さんの案内により海洋調査実施風景

最後に、本プログラムでの学術交流活動の機会をいただきました「さくらサイエンスプログラム」に対し、グループ一同を代表して感謝申し上げます。

上智大学にてシンポジウム終了後修了書授与