2019年度 活動レポート 第221号:北海道大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第221号

カンボジア王立農業大学の学生が北海道で水産資源管理技術を学ぶ

北海道大学からの報告

2015年の国際サミットで「海の豊かさを守る」ことが17の持続可能な開発目標の一つとされ、持続可能な水産資源の利用は世界の命題として定義されました。経済的な発展を続ける東南アジア諸国ですが、水産セクターは管理システムが充足しているとはいえず、環境や経済の変化などの外部要因に対して脆弱です。変化の中で限られた資源をいかに持続的に利用して行くかは、これらの国々の今後の未来に大きくかかわることです。情報の集積による合理的な水産資源管理を行ってきた欧米に対し、日本では長い歴史の中で、コミュニティによる共同漁業や自主管理が展開され、トップダウン・ボトムアップ両方のアプローチに基づいて独自の沿岸の水産資源管理を行ってきました。東南アジアにおける水産セクターの持続可能な経済発展のため、日本の資源管理・漁業管理の知見を基にした貢献は大いに期待されるところです。

設立以降1世紀の間、北海道大学では水産学部を中心にアジア型水産資源管理・漁業管理の手法や実施、普及のための教育・研究を進めてきました。2019年12月現在水産学部のかかわる43の協定校のうち13の国が東南アジアの国々であり、現場のニーズに基づいた実際的なプログラムを留学生や各国からの研究員に提供してきました。

さらに2017年から他学部との連携の元、世界の課題に取り組む大学院国際食資源学院の設置にもかかわり、資源の管理と利用にかかわる科学的なアプローチを探り続けています。今回、この一環としてさくらサイエンスプログラムによる「北海道で水産資源管理技術を学ぶプログラム」を2019年12月1日〜7日の日程で実施しました。参加者は、カンボジアにおける農業系大学ランキング第1位で、カンボジア水産庁職員の多くが卒業しているカンボジアの王立農業大学(RUA)の教員1名、学生9名の計10名でした。

北海道大学生とともに授業を受ける

水産資源の管理と水産物の利用は相互に強くかかわりあっており、それぞれの要素を学ぶことが必要です。研修は講義と視察の2構成から成り、研修員たちは日本の資源管理、漁業協同組合と漁業権漁業を学ぶとともに、水産加工の工夫や流通の仕組みを勉強しました。協同組合について、研修員たちはその成り立ちから機能を講義と議論を通じて理解し、視察では協同組合でウニの活動を現場で体感しました。また、沿岸の海藻養殖の活動をはじめとする漁業活動についても見学を行いました。

恵山漁業協同組合にてウニの種苗生産施設を見学

市場システムは資源の効率的で持続的な利用に貢献しています。研修においては函館市水産物地方卸売市場を見学し、新鮮な魚介類の迅速で公正な取引と取引環境の整備について学びました。食品会社の見学では新鮮な材料を用いた清潔な加工プロセスについて学び、HACCP認証の採用、環境整備の実践について説明を受けました。さらに、変動する水産資源の利用においては、より正しい情報をより多く得ることでリスクを減らすことができますが、このための調査や研究の努力についても講義や見学を通じて学びました。

卸売市場にてセリを見学
食品工場見学

北海道大学はRUAへ学生と教員を派遣して現地の状況を視察するとともに、北海道大学の授業を提供するプログラムを実施しています。今回の研修生は、2019年7月に実施した派遣プログラムに参加し、すでに北海道大学と交流していた学生です。派遣と招へいを組み合わせることにより、日本と日本の漁業をより深く知ってもらうことができました。研修生は今後、カンボジアの水産の将来を担っていく貴重な人材です。本研修で得られた日本の水産資源管理技術に関する情報とネットワークを使い、カンボジア独特の実情にあった方策を考えてくれることを期待し、今後も交流を続けて行きます。

北海道大学学生といっしょに雪だるまを作りました。