2019年度活動レポート(一般公募コース)第220号
次世代の人材育成に大きく貢献する日中共同研究のためのプログラム
京都大学からの報告
2019年8月28日から9月7日まで、中国・大連理工大学から大学院生4名、教員1名を招へいし、若手人材育成のための共同研究プログラムを実施しました。
核融合プラズマでは、核融合反応を起こすために高温プラズマを一定時間閉じ込める必要がありますが、プラズマ中に発生する乱流がそれを阻害する要因となっています。したがって、そのような乱流現象の特性を理解し、制御する方法を開拓することが、核融合エネルギーの実用化に向けて重要な鍵を握ります。そのような解析に、従来は計算量の比較的少ない数値モデル(固有値モデルや流体モデル)が用いられてきましたが、近年、計算機性能の進展に伴い、第一原理モデル(運動論モデル)が用いられるようになってきています。
そこで我々のグループでは、ジャイロ運動論モデルと呼ばれる核融合プラズマにおいて有用な第一原理モデルに基づいた数値シミュレーションコードGKNET (GyroKinetic Numerical Experimental Tokamak)を独自に開発し、乱流現象の解析を行っています。本申請は、このGKNETを用いて第一原理シミュレーションを行える中国の若手人材育成に貢献し、京都大と大連理工大での継続的な共同研究の契機となることを目的として行われました。
実施内容としては、京都大側から大連理工大の学生にGKNETで用いられている物理モデルや並列化を含む数値計算アルゴリズムを指導することを目的としたセミナーを実施し、その後に、大連理工大の学生が滞在中に自らGKNETを用いた運動論シミュレーションを行い、同学生が現在用いている固有値/流体シミュレーションの結果と比較しました。
このようなセミナーやシミュレーション実習は中国側の若手人材育成、特に大規模計算が主流となる次世代の人材育成に大きく貢献するものと考えています。またそのような研究は学生の現在の研究に関する理解を深めることに留まらず、今後、運動論シミュレーションを行う一つの契機となり、本プロジェクトの趣旨の一つである継続的な交流に寄与できたと考えています。実際、その後、申請者のグル-プが中国を訪問した際に学生からその後の進捗状況について報告を受けており、本プロジェクトを契機に共同研究を進めていきたいと思っております。
また本プロジェクトでは、日本を代表するヘリカル核融合装置であるLHD(核融合科学研究所、岐阜県土岐市)とHeliotron J(京都大、京都府宇治市、滞在先と同じ)を見学すると共に、我々のグループが行ったシミュレーションによる両装置の比較研究を紹介することで、日本における核融合研究に対する興味を深めることができました。加えて滞在中の休日を利用して、宇治市、京都市の文化体験施設として平等院鳳凰堂や紫式部館、伏見稲荷大社を訪問すると共に、茶道体験を行い、日本文化に対する興味を深めるよい機会になったと考えています。
したがって、総じて本事業は当初の目標を達成し、大変有意義であったと考えています。実際に訪れた学生の印象も好評であり、今後、研究者として日本で働く契機となればと強く願っております。