2019年度 活動レポート 第137号:富山大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第137号

ミャンマー産天然資源からの有用化合物の発掘に関する研究交流

富山大学和漢医薬学総合研究所からの報告

「さくらサイエンスプログラム」により、令和元年10月11日から10月20日まで、ミャンマー・ヤンゴン大学化学部から3名の大学院生と引率の教員として同大学化学部長が来日しました。本プログラムは、ミャンマーの天然薬物研究を担うヤンゴン大学の大学院生が自国で単離した化合物について、分析機器を用いて自ら化学構造を解析し、さらに生物活性を自ら測定することで、ミャンマーの今後の創薬を担う若手研究者の育成と継続的交流を図ることを目的に実施しました。

初日の10月11日には本事業の実験の打合せを行い、翌日の10月12日からは、HPLCの使用方法について説明を受けた後、早速、化合物の精製を開始し、これを17日まで続けました。招へい研究者は、これまでにHPLC装置を用いたことがなく、使用にあたって緊張していましたが、HPLC操作を繰り返すことによって化合物の純度が良くなっていくことを喜んでいました。

HPLC装置を用いた化合物の精製

化合物の精製と並行して、10月12日には、招へい研究者らが来日前にミャンマーにおいて既に精製していた化合物についてもNMRスペクトルを測定しました。ミャンマーにはNMR装置が無く、NMR装置そのものも直に見るのも初めてで、この使用に関して、招へい研究者らは特に感銘を受けていました。このNMRスペクトルの測定は、HPLCで化合物が精製できる度に行い、帰国前には多くの化合物のスペクトルデータを得ることができました。

また、17日と18日には、精製した化合物のマススペクトルやIRスペクトル、旋光度などを測定しました。しかし、これらのスペクトル分析のデータをもとに化学構造を予測する訳ですが、その解析には時間を要し、来日中に化学構造を決定することはできませんでした。予め、NMRスペクトルなど各種スペクトルデータの解析の仕方を学んでおくことが今後の課題として残されました。

IRスペクトルの測定

10月16日からは、精製した化合物のヒト由来がん細胞に対する細胞毒性試験を開始し、17日にその活性試験の結果を解析しました。これにより、いくつかの化合物に細胞毒性を見いだすことができました。また、18日の午後には、精製した化合物の抗菌・抗真菌活性試験及びアセチルコリンエステラーゼ阻害活性試験を開始しました。いずれの化合物においても、アセチルコリンエステラーゼ阻害活性を見いだすことができなかったため、招へい研究者らはがっかりしていましたが、その翌日に得られた抗菌活性試験の結果では、いくつかの化合物に弱いながらも活性を見いだすことができ、招へい研究者らは満足していました。

招へい者らによる細胞毒性試験

これらの研究体験とは別に、来日3日目の10月11日には、医薬品製造会社である廣貫堂の資料館及び和漢薬製造販売の老舗である池田屋安兵衛商店を訪れ、薬都富山の和漢薬の歴史について学びました。廣貫堂の資料館では、配置薬の制度を学ぶことができました。配置薬の基本概念である「先用後利」(まずは置き薬を使ってもらい、使用した分の代金を後で請求)については、利益が得られるのか、お金を払ってくれない人がいるのではないかと不思議に思っていました。池田屋安兵衛商店では、和漢薬の歴史を学ぶとともに、丸薬作りも体験しました。

池田屋安兵衛商店での丸薬作り体験

また、10月16日には、実験の合間をぬって、本学の民族薬物資料館を見学し、薬都富山の歴史と伝統、和漢薬を始めとする世界の伝統薬物や漢方薬について学びました。この日は、日本と自国との伝統薬物に対する概念の相違点や類似点などを学ぶことができた1日となりました。

民族資料館見学

最終日は、研究成果の報告会を行い、その後、修了式では、森田教授から各人に修了証が授与されました。また、アンケートでは、全員が今回の訪日に対して「非常に満足」と答えておりました。「さくらサイエンスプログラム」により、とても有意義な国際交流の機会をいただいたことに、心より感謝申し上げます。