2019年度 活動レポート 第76号:北海道大学

2019年度活動レポート(一般公募コース)第076号

北海道で水産資源管理技術を学ぶプログラム

北海道大学水産科学研究院
教授 松石 隆さんからの報告

多くの科学技術が欧米で開発され世界に広がるなか、欧米とは状況が異なりアジアで独自に開発しなければならない技術も少なくありません。アジア人の食卓に欠かせない魚の漁獲を管理する水産資源管理技術もその一つです。欧米の大規模で効率的な漁業に比べて、アジアの漁業は小規模なものが多く、僅かな量の魚介類を自然に優しい方法で漁獲します。また、沿岸地域の貧しい村に多くの雇用を作り、人々を飢えや貧困から救っています。海の中の誰のものでもない水産資源を、多くの漁業者が競って獲ると乱獲状態に陥りがちですが、日本では漁村で自主的に規制を作って管理する伝統があり、そこから発展した漁業協同組合が、政府の漁業管理と一緒に資源を管理する仕組みを作り、欧米型とは異なるアジア型の漁業管理が成立しています。水産資源にまだ余裕がある東南アジアで、アジアの状況に即した漁業管理体制を確立して魚介類を供給していくことが、これから強く求められます。

水産試験場調査船見学にて

スーパーグローバル大学トップ型13校のうち、唯一水産学部を擁する北海道大学は、アジア型水産資源管理技術を発展・普及のための様々な教育、研究を行っており、その一貫として、今回、さくらサイエンスプログラムによる「北海道で水産資源管理技術を学ぶプログラム」を実施しました。参加者は、ASEAN各国と日本がメンバー国となっている政府間国際機関、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)の若手研究者、タイ王国4名、インドネシア、マレーシア、フィリピンから各2名の計10名です。

熱心に授業を聞く参加者

研修では、授業、実習、見学を通じて、漁業、資源管理、流通、水産研究の多くの活動を実地で学びました。漁業については、定置網漁業、たこ箱漁業、刺網漁業、いか釣り漁業の見学、資源管理に関しては、資源管理と資源評価、資源・漁業管理を実施している漁業協同組合、漁業権・漁業許可の許認可をする渡島総合振興局、漁業者と行政を結ぶ水産技術指導普及所の活動について、実地で学びました。また、高精度の資源評価法に欠かせない漁獲物の年齢査定法を実験室で実習しました。

年齢査定実習
定置網漁業水揚げ見学

流通については、生産地市場、消費地市場、小売市場を見学し、また函館の新鮮な魚介類を賞味し、海の中から食卓のまで、流通の全てを見届けました。さらに、エコラベルの授業を通じて、消費と資源管理をつなげる取組も学びました。資源管理技術を開発する北海道大学水産学部や水産試験場の研究、さらに国際水産海洋都市である函館市の産学官連携への取組について、実地で学びました。

魚市場での競りを間近で見学

無論、日本の水産資源管理技術を、そのまま東南アジア諸国に移転しても機能しませんが、多くのヒントを持って帰ってくれた事と思います。このネットワークを大切に、今後とも北海道大学水産科学研究院が東南アジアの漁業の発展に寄与できたらと思っています。