2019年度活動レポート(一般公募コース)第072号
中央アジアの大学生・研究者が医療分野におけるAIの応用について学ぶ
武田計測先端知財団からの報告
武田計測先端知財団は、2019年7月22日より7月27日の日程でウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの大学生、研究者11名を招へいし、医療分野における人工知能(AI)の応用について体験学習を行いました。
背景
中央アジア諸国はソ連の共和国でしたが、ソ連が崩壊してからはハードな技術開発が困難になり、ソフトウエア開発やIT関連のサービスを受注することで経済的な発展に繋げようとしています。当財団は、中央アジアにおけるIT人材の開発に協力すべく、これまで、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスから優秀な若者を日本に招へいし、ロボティックスやIoT等の研修を行ってきました。しかし、毎年異なる国から招へいするやり方では、継続的なフォローアップが容易ではなく、さくらサイエンスプログラムの活動を日本への留学や就職に結びつけることが困難だと判断し、今年度からは、複数の国から毎年少人数招へいすることで、長期的な人材育成を図ることにしました。
送り出し機関
中央アジア4か国からの招へいでは、各国の日本センターが主たる送出し機関になりました。日本センターは、JICAが各国の人材開発に協力するために現地に設置した機関で、その多くは、現地の組織になっています。4か国からの招へい者を1チームに編成して送り出すことは、決して容易な作業ではありません。各国の日本センターの連携があればこそできた研修だったと思います。
研修
まずAIによる画像認識ハンズオン教室を開催しました。これは、クラウド上のIBM Watsonを利用し、物体や顔の画像認識を行うプログラムをつくるという研修です。今回の招へい者はITやプログラミングを専門にしている者がほとんどでしたが、AIを使った経験はなく、AIハンズオン教室は彼らにとってeye-openingな経験になったようです。
次に、東北大学の東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)を訪問しました。ToMMoは、2011年の東日本大震災を契機として設置された機関で、被害を受けた地域の人々の継続的な健康診断情報とゲノム情報を収集し、得られたビッグデータの解析から、個別化医療・個別化予防の研究を行っています。ToMMOでは、異なる情報間(健康診断情報とゲノム情報)の関連解析の手法を学びました。
最後に、東大医科学研究所を訪問し、AIを用いたがん診断法について研修しました。がん細胞には、数千から数十万にものぼる後天的なゲノムの異常が見られますが、これを臨床的に解釈し、効果的な薬剤を選択するには2,600万報以上の文献情報を調べる必要があります。東大医科研では、人工知能Watsonを使って、ゲノム情報、臨床情報、文献情報を解析し、がんのゲノム異常の情報から効果が期待できる薬剤の同定、治療法の決定を行うための研究を行っています。
今回は、参加者は自分が各々の国を代表しているという意識があり、研修全体に緊張感がありました。一方で、6日間行動を共にしたことから参加者の間に信頼感が生まれ、最後に各々の国に向けて解散する時には別れ難かったという報告を引率者から受けました。将来、彼らがこの研修を通して得られた知識と人脈を生かし、中央アジアにおけるIT産業の開発に貢献することを願ってやみません。