2019年度活動レポート(一般公募コース)第058号
上海市・崇明島「スマート農業」モデル構築に向けた日中サイエンス連携
ときの羽根
代表理事 久田 治子さんからの報告
2019年6月2日~6月8日、さくらサイエンスプログラムにより、人口2400万人の上海市の「食」を支える重要な政府機関から選抜された農業分野の研究者・政府指導者のグループ「上海市スマート農業視察研修団」(上海市崇明区農業委員会・上海市崇明区農業技術普及中心・上海市農業科学院)16人を招へいし、中部地区にて科学技術交流プログラムを実施しました。
中国は近年目覚ましい経済発展を遂げる一方で農村荒廃が深刻化し、農民工が都市部に出稼ぎに出ることで「限界集落」が増加し、都市部との貧富の差が拡大しています。中国政府は最優先課題として「農業の生産性を上げ、農民所得の向上」を目標に農業の技術革新を強く推進しています。2018年には上海市崇明島での「2021中国花博」の開催が確定し、「中国農業問題」の解決に向けた「崇明スマート農業」の具体的な展開が上海市に課せられ、崇明区長から日本の中部地区の優れた「スマート農業」の技術革新と実証・普及例視察研修の受入れを依頼されました。
中部地区は弊法人の地元でもあり、都市近郊型、土地利用型、中山間地等、多様な農業の展開が見られるほか、愛知県は工業出荷額日本一を誇る「ものづくり力」とともに学術的研究基盤も集積し、加えて愛知県の農業生産高は全国6位で、「スマート農業」の推進において立地条件に恵まれています。
そこで本プログラムは、日本の優れたスマート農業の先端技術移転や人材交流、花き類、野菜類、加工食品など農産物の現地紹介に繋げることを目的としました。優れた人材や先端技術において分野を超えて融合・連携することで、独自のスマート農業を推進していくことが期待できます。
受入れ機関としての総括と成果
①上海市政府幹部との計画を遂行(分担金制度の活用)
昨年、上海市崇明区幹部を招へいした際、過去にSSPで崇明区の高校生、研究者ら複数名が来日した実績を踏まえ、「2021崇明・中国花博」の成功に向けた上海市農業科学院と上海市崇明区農業委員会が合同で「スマート農業」をテーマとする日本視察の重要性を表明し、1年間の準備期間を経て6月に招へいすることができました。上海市政府が公費による分担金を承諾した理由として、2017年北京での「SSP成果報告会」や「日中大学フェア&フォーラム」開催実績により中国国内でSSPの認知度と評価が高まっていることも幸いしました。
②上海市政府との公式交流プログラムによる成果
- 上海市政府農業研究者らが公務としてSSPに参加したことで、日本の受入れ側として地方自治体同士の国際交流として位置付けることができ、愛知県公式訪問による大村知事との面談や愛知県農業総合試験場、安城市との交流プログラムを実施することができました。
- 中国駐名古屋総領事館の表敬訪問では、劉暁軍総領事、孫志勇副総領事、李穎領事(科技)、陳麗萍領事(教育)が同席されて意見交換できました。
- 豊橋技術科学大学での交流プログラムに、李穎領事と岳倩領事(商務)の2人が参加されるなど中国総領事館のSSPへの支援体制は万全であり、学術的・ハイレベルなサイエンス交流を展開でき、今後、自治体や大学、研究所との情報交換、人材交流、共同研究、技術移転など公的な要素を含む連携に繋がる土壌を開拓できました。
③招へい者の毎日のレポート提出による学習効果と各人の体調・意識管理
招へい者に毎日の視察レポートと感想文の提出を義務付けたことで、視察先の名称、体験内容について再認識できると同時に招へい者全員のレポート内容を共有することで客観的な視野を広げ、1週間のプログラムの学習意義を共通認識として把握することができました。加えて毎日全員の感想を読むことで健康管理や問題提起など翌日のサポート改善に役立ちました。
帰国後の完了報告書から
- 中国と日本の「農業」の違いについての具体的な分析や日本への理解と意識の変化について正直な感想が多く見受けられました。「農業」分野での愛知県との具体的連携への提言も多く、来年度SSP申請に対して日中合同会議の必要性を実感しました。
- 今回3機関から選出された招へい者16人は日本初来日で初めて出会うメンバーが多く、祖国の「農業政策」に従事する上海市の若いリーダーたちです。日本の優れた農業技術やシステムを視察し、中国が抱える課題解決への意欲と開拓責任を共有し合うと同時に「友情」を育めたことへの感謝の言葉を多くいただきました。
帰国後すぐに招へい団幹部の紹介で上海市崇明区農業委員会顧問から愛知県の農業視察の調整依頼があり、愛知県での農業連携の相談を受けました。SSP実施後そのネットワークによる新たな交流アクションは、双方向の展開として嬉しく受け止め次のステップに繋げたいと思います。
申請から完了報告書提出まで年々ルールが進化し厳しくなっている中、SSPの交流活動ご支援並びに各ご担当者の丁寧なご指導に感謝申し上げます。