2019年度活動レポート(一般公募コース)第037号
中国の若手研究者と地方行政官が日本スタートアップ型企業の技術経営を学ぶ
神戸大学大学院経営学研究科
教授 黄 磷さんからの報告
神戸大学では、2019年8月18日から8月24日まで、中国湖北省の武漢新エネルギー研究院と武漢市政府より合計11名(研究院の研究員9名、武漢市政府職員2名)を招へいしました。神戸大学は、中国の54の大学、とくに湖北省では、武漢大学や華中科学技術大学などとはこれまでも大学間交流協定を結び、様々な形の国際交流を進めてきましたが、今回は初めて中国の武漢から研究員と地方行政官招へいとなります。
市街地における水素発電による熱電供給システムの実証実験を世界で初めて実現した神戸の地に、武漢新エネルギー研究院(中国湖北省、武漢市と華中科学技術大学の共同設置した研究機構)からの研究者一行を招いての今回の交流目的は、新エネルギーの最新動向、創業とイノベーションのための技術経営および新しい産業クラスターの形成に関する研修プログラムの実施であります。
本プログラムは、日本の新エネルギーの研究開発と社会実装の世界先端的な最新動向を体感してもらうとともに、スタートアップ型企業を含めた中小企業への大学や自治体の支援体制、産官学連携による研究開発や創業の仕組みを総合的に理解できるような企画としました。
プログラム初日には、神戸大学の産官学連携の仕組みに関する講義を受け、大学の研究施設を体験してもらうため、研究室の見学を実施しました。2日目は、神戸ポートアイランドに設置してある水素燃料100%のガスタービン発電装置を視察し、川崎重工業株式会社水素チェーン開発センターおよびNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)次世代電池・水素部の専門家による講義を受けました。川崎重工業株式会社などは、NEDO事業において、2018年4月19日と20日に実施した実証試験にて、市街地における水素燃料100%のガスタービン発電による熱電供給を世界で初めて達成しています。
また、360社もの企業が集積している先端医療・医薬・医療機器の産業クラスターである「神戸医療産業都市」を見学し、産業クラスターの形成の仕組みと発展の歴史についての講義を受けました。
3日目には、100年以上の歴史を有し、中小企業が集積している大阪府や大阪市における企業の技術開発をサポートするプラットフォームである大阪産業技術研究所を見学し、おが屑から水素ガスを回収する燃焼実験に関する解説を受けて、新素材開発の現場を体験しました。
さらに、日本企業の創業とイノベーションの歴史について学ぶために、世界的な電器メーカーに成長し、創業100周年を迎えたパナソニック株式会社のパナソニックミュージアムを訪問し、松下幸之助歴史館とものづくりイズム館を見学しました。これらの視察と見学によって、研修プログラムの参加者全員は日本の創業とイノベーションをサポートする仕組みおよびスタートアップ型企業の技術経営に関する理解を深めました。
研修プログラムの参加者にとって、日本の創業、イノベーションと技術経営の一端を深く理解する貴重な機会となっただけではなく、本学の引率教員にとっても、日本の大学における基礎研究、技術開発、産学連携、ベンチャー企業支援および社会実装の仕組み、そして、創業、イノベーションと技術経営などに関する日中間比較を行った講義などで、大変貴重な機会となりました。
さくらサイエンスプログラムの支援を受けて、これまでも本学では中国をはじめ、海外の大学や研究機関からの学生や研究者の受け入れを実施してきました。これまでの経験を蓄積して、短期間な研修プログラムでありながらも、世界共通の社会的に関心の高いテーマについて深く理解し、そして、さまざまな側面で日本の社会や文化に触れられるような学習機会を提供してきました。今後とも、より多くの海外の学生や研究者に日本のすばらしさと本学のすぐれた研究環境を体験してもらいたいと考えています。