2019年度活動レポート(一般公募コース)第015号
「介護の認知的技能と手法的技能」~日本型介護の質の保障~
神戸女子大学からの報告
さくらサイエンスプログラムにより、2019年6月26日から7月4日の日程で、インドネシア・国立ウダヤナ大学の大学生5名、教員1名を招へいし、科学技術研修プログラムを実施しました。
ウダヤナ大学(国立総合大学)は、1962年に設立されたインドネシア4つの国立大学の一つであり、文系・理系合わせて13の学部を有し、学部だけで約18,000人の学生が在籍しています。アジアの観光地であるバリ島にあるため、観光研究・教育にも力を入れており、日本語を学ぶ学生も多くいます。総合大学のディプロマポリシーを見据えた中長期計画として、インドネシアにおける社会学・社会福祉学・ソーシャルワーク等の知識技術の習得は関心が高い分野です。
昨年、ウダヤナ大学の若手研究者2名を招へいしました。2019年度は、2回目の企画です。本年度研修企画背景としては、2名の研究者を招へい(さくらサイエンス事業の研修成果)した影響が想像以上に大きかったことが挙げられます。
兵庫県神戸市を中心とする福祉施設・教育施設・災害防災施設は、アジアに向けて日本型福祉を発信できる力があります。神戸は、交通事情にも恵まれ、世界遺産が多い京都・奈良・姫路へのアクセスも容易であり文化・芸術を含む幅広い研修企画・実践が可能です。
今回の研修成果として以下3点を挙げたいと思います。
① 本研修プログラムは、ウダヤナ大学教育の中に新しい研究フィールドとして、社会福祉・介護福祉・地域福祉等を紹介することができました。ウダヤナ大学医学部所属のエカ先生(精神科看護)は、バリでは黎明期であるソーシャルワークフィールドにおいて本学教員と共同研究をスタートすることが決まりました。看護学科・日本語学科の学生たちは、若者の課題として晩婚・未婚・合計特殊出生率低下の要因や対策に高い関心を寄せました。これから国を背負う若い優秀な学生の意欲的な発言は、後に続く子供たちに多大な影響を与えるものと確信できます。
② 現在、日本の強化施策である地域包括ケアシステムは、日本にとって近代化によって失った家族機能・コミュニティの再構築であり、新たな包括的概念の支援システムです。ところがバリでは、公的サービスはなくとも、バリコミュニティの持つ家族力・地域力は、バリヒンドゥの宗教的背景を基盤に「自助・互助・共助」の機能を維持している可能性が高くあります。介護予防の一つ「笑いヨガ」に参加したウダヤナ大学の学生は、「笑い」や「笑顔」を作ることが福祉サービスとして位置づけられていることに驚いていました。
学生たちは、幼いころから親しんでいる祭り、支え合う家族や親族のつながりといったバリの日常生活様式が、日本の目指す地域包括支援システムという可視化された機能と同じかそれ以上に生活モデルとして力を持っていることに気がつくことができました。笑顔が自然に身につく家族力や笑顔あふれる地域での触れ合いは、それだけでどれほど素晴らしいことか支援の根拠を学び、日本の研修で確認できたことは今回の研修の大きな成果の一つといえます。
③ 学生同士の交流は、相互に次世代を担う自覚と学習意欲喚起の場として果たした役割が大きかったように思います。大学内では、ゼミナール・講義・演習に参加して日本医療・福祉政策・介護の概念を学び、その後実際に7か所の見学研修に出かけました。その結果、日本の医療・福祉制度・介護を対象とする生活モデルの概念・介護の認知的技能と手法的技能の学習はもちろん、施設見学や文化に根差した体験研修が功を奏し、相乗され満足度の高い研修内容につながっていることを確認できました。
学生は日本で働きたいと夢を語り、この体験を帰って報告する義務があると使命感を口にしました。少子高齢社会を迎えている日本にとって、福祉の充実は避けて通れない課題であり、8050問題(「80」代の親が「50」代の子どもの生活を支えるという問題)、閉じこもりなど問題は山積みです。これから発展が予想されるバリにおいて、日本の経済的発展と同時に生まれた家族の持つ機能の低下・地域の脆弱化に対する課題は他人ごとではありません。その点においても今回の研修は、バリの福祉領域に対して新しい人的エネルギーにつながる可能性を確認する機会となりました。