2018年度 活動レポート 第365号:京都大学

2018年度活動レポート(一般公募コース)第365号

東南アジア地域における学術情報基盤環境の構築・整備支援

京都大学からの報告

京都大学東南アジア地域研究研究所図書室では、2015年から継続的な人材交流を目的に、さくらサイエンスプログラムを活用し、「東南アジア地域における学術情報基盤環境の構築・整備支援」をテーマとして、東南アジア諸国の図書館員・図書館情報学研究者を招へいし、当研究所の学術情報基盤構築スキームを研修するとともに、国内連携機関における関連テーマに係る視察・実習を行っています。

本事業はすでに8回実施され、送り出し機関は東南アジア大陸部6カ国28機関83名、日本側受入機関は23機関に及びます。本研究所による招へい者を含めると、すでに100名近くが東南アジア諸国図書館からプログラムに参加しています。今回のフィリピン主要大学と地方大学図書館招へいも、2年前に本事業に参加したアテネオ大学・リサール図書館館長による紹介と働きかけによって実現したものです。

2018年度は、10月28日~11月5日にかけて、フィリピンのフィリピン大学ディリマン校・アテネオマニラ大学・イフガオ州立大学・ヴィサヤ州立大学・ブラカン州立大学の5機関から、図書館員10名が来日し、本研究所で招へいしたブラカン州立大学図書館情報学准教授1名を加えて、全11名が参加しました。

京都大学東南アジア地域研究研究所中庭にて

到着初日の10月28日に簡単なオリエンテーションを行った後、翌29日東京大学経済学資料室で図書館資料保存に係る講義と実習を終日行いました。講義では、東日本大震災による資料被災事例が挙げられ、日本と同じく自然災害をたびたび被ってきたフィリピン図書館として、一行の中からは感慨と共感の発言が寄せられました。

研修3日目は、今回日程のメインである日本国内の図書館とその関連研究機関及び民間企業が一堂に会する「第20回図書館総合展」(10/30-11/1開催、於:パシフィコ横浜)を視察しました。会場内では東南アジア諸国から初めて参加した一行に注目が集まり、事前に受入依頼をしていた図書館総合展運営委員会や出展機関のみならず、ほかの多くの出展ブースから声がかかり、データベース・デジタルアーカイブ、セキュリティ機器など各々の専門に応じてグループに分かれて、会場に展示されている最先端の情報科学技術を実見・体感しました。

国際交流委員会委員長Mario Ivan Lopez准教授による研究所概要説明後に記念写真

4日目以降は関西に移動し、京都大学、国立国会図書館関西館、国立民族学博物館で研修が行われました。京都大学では、東南アジア地域研究研究所内図書室・情報処理室・地図資料室、学内の附属図書館で研修を行いました。本図書室では図書館データベース操作プレゼンテーションに伴いNII総合目録データベースへのリンクやILL運用状況、附属図書館ではIIIFデジタルアーカイブ構築、国会図書館関西館ではフィリピン資料刊行・所蔵事情についてと、それぞれ活発なディスカッションが行われました。

国立国会図書館ブースで英語ビデオによる同館概要説明
地図・資料室で地図保管・デジタル化設備やフィリピン古地図を視察

今回の研修では、参加者の英語能力や主要大学図書館の技術水準が高いことも相まって、日本側各機関との積極的な情報交換とディスカッションの場面が多くありました。フィリピン参加者側では、すでに本事業研修内容を熟知しており、デジタルアーカイブ技術に焦点を絞って若手専門技術スタッフ研修の意図をもって参加者を選抜していたように見受けられました。

今回は、戦後日本と同じくアメリカの図書館情報学を摂取したフィリピン大学図書館における図書館データベースやリポジトリ・デジタルアーカイブの技術水準は高いと予想しており、むしろ日本の産官民連携の技術力を図書館総合展のような大規模イベントで実地に視察してもらえればと、計画段階において研修プログラムを組み直しました。

しかしながら、実際の研修課程では、当初予想していた以上にフィリピン国内の大学間で首都・地方格差が大きい、国立情報学研究所が運営するSINETのような情報基盤インフラがない、図書館を支える民間企業が発展していない、防災対策の脆弱性など、フィリピンにおける学術情報基盤環境構築の諸課題が浮き彫りとなりました。今回訪日した各機関からは、日本との継続的な技術情報交換、E-DDSによる資料共有プラットフォーム構築について国を超えた連携への期待が寄せられました。