2018年度活動レポート(一般公募コース)第336号
カンボジアの大学生・教員が日本のICT最先端技術を体験
大阪府立大学現代システム科学域
教授 瀬田 和久さんからの報告
大阪府立大学現代システム科学域では、さくらサイエンスプログラムの支援を受けて、カンボジア王立プノンペン大学から大学生9名、教員2名の計11名を招へいしました。システム発想型ICT最先端技術体験プログラムをテーマとし、2019年2月19日から2月24日の6日間の日程で学術文化交流を行いました。
1日目は、空港から大学まで案内し、その後自己紹介を含むアイスブレイクを行った後に、大阪府立大学の紹介をしました。図書館やキャンパスを案内するとともに、日本の最先端技術を体感するプログラムとして、学内のIT技術を駆使した植物工場へ赴きました。そこでは、IT技術を活用することにより、光や水といった植物の生育環境の高度な環境制御を実現し、季節や天候に左右されず野菜を計画的・安定的に生産できるシステムを学びました。
2日目は、リーディング大学院プログラムの協力で、システム発想型のワークショップ(マーケティングの視点からビジネスプランの提案)を実施しました。まず、システム思考の概略を約50分講義した後、3班に分かれて演習のターゲットシステムを決めました。その上で、それぞれのビジネスのターゲット(可搬型浄水装置、エアコン、飲料自動販売機)についての要求要素(メリット)を残さずリストアップし、その要素リストの優先順位をカンボジアと日本でどのように異なるかを議論しながら決めていきました。ここでは、カンボジアと日本で要求されている要素の差分も検討しました。
この段階で中間発表を行ったのち、要求要素を実現するための機能実現に向けた技術開発要素について議論しました。こうした一連の議論を通じて、いきなり新規の機能を考えるのではなく、要求要素をリストアップすることから系統的に議論を進める意義を学びました。その後、辻学長を表敬訪問し、1時間ほど今後の交流計画などについて懇談しました。
3日目は午前に関西電力中央給電指令所を見学し、午後からは姫路第二発電所の見学をしました。中央給電指令所(Central Dispatch Load Center)では、概要を説明していただいてから関西電力所管内のすべての制御を司る指令室の見学をしました。天候などの要因を考慮した需給予測に基づき発電計画をたてた上で、その時々の実際の需要、管内の太陽光発電の総給電量などに応じて発電量を精密に調整することで、高品質の電力供給を実現していることを説明していただきました。その後質疑応答を行いました。
午後は、バスで姫路第二発電所に移動し、関西電力所管内で最大の火力発電所を見学しました。液化天然ガス(LNG)の運搬方法から丁寧に説明していただき、LNG貯蔵庫や中央制御室やタービン建屋、構内の見学を行いました。極めて高い燃焼温度を実現することで、電力転化率が60%という最新鋭の設備を見学させていただき、電力事情が不安定なカンボジアからの学生・教員も大変感動した様子で、その後も活発な質疑応答がなされました。これらの見学を通して、日本の最新鋭技術を学びました。
4日目には、大阪府立大学のIT系の最先端の研究を見学しました。まず、瀬田研究室にて、第2言語コミュニケーション意欲(WTC: Willingness To Communicate)を高める会話エージェントに関する研究の解説とデモをしました。次に、中島研究室にてロボカップ二次元サッカーシミュレーションで世界一になった、AI技術を駆使したサッカーシミュレーションやビッグデータ解析、ヘルスケアシステムについて説明していただきました。
午後は、新日鐵住金大阪製鐵所に移動して、鉄道車両品関連の製鋼プラントを見学しました。まず、はがね歴史記念館を見学し、社史を含めたはがね製造技術の発展の歴史を説明していただきました。続いて、鉄道車輪圧延‐鍛造プロセスを実地見学しました。日本最大級の1,600トンもの圧延装置による圧延-鍛造は地響きがするほどの圧巻のスケールで、まさに日本の物作り技術の現場を五感で体感する機会となりました。
最後に、鉄道台車組立プロセスを見学し、特に鉄道車両の車輪、車軸、台車等の組み立て、検査プロセスを見学しました。巨大な装置によってかたどられてきた車輪、車軸、台車などが、安全・安心を支える基幹製品として緻密に組み上げられ最終的な製品として出荷される際には、精密な品質検査がなされる様子を見学し、日本の物作りスケールの巨大さと緻密さを併せ持つ技術の最前線に触れる貴重な機会となりました。
5日目は、大阪府立大学I-siteなんばにて、まちライブラリーを見学しました。大阪府立大学のまちライブラリーは、本を通して人と出会う場所として、市民のみなさんが本を持ち寄ることで、まちと人、人と人のつながりを創出する仕組みを紹介していただきました。また、さまざまなワークショップが開催され、市民が集う文化交流の場となっている様子に新鮮な驚きを感じていた様子でした。
その後は、さくらサイエンスプログラム全体を振り返り、王立プノンペン大学の学生、教員および大阪府立大学学生それぞれが本プログラムへの参加を通じて得た経験を相互に共有しました。そして、最後に修了書授与式を実施し、瀬田教授より参加者一人一人に修了書を授与しました。
最後に、このプロジェクトに携わったみなさまに感謝いたします。今後も「さくらサイエンスプログラム」を通じた継続的な人的交流が大きな力を生み出すことを願っています。