2018年度 活動レポート 第156号:東京海洋大学

2018年度活動レポート(一般公募コース)第156号

インドネシアの学生がFIV: Food Intrinsic Valueと生物多様性・生態系サービスを学ぶ

東京海洋大学からの報告

2018年8月19日から8月26日に実施された今回のプログラムの目的は、最先端の科学技術により明らかにした科学知と地域に根ざした在来知を融合した人と自然とのつながりにある本有的な価値(FIV: Food Intrinsic Value、食の本有的価値)を理解し、生物多様性・生態系サービスを含む自然環境やそこに住む人々に対する共感力を高めることにありました。前半の2日間に東京海洋大学にて生物多様性と生態系サービスに関する最先端の講義と実習を実施し、後半は岩手県宮古市を東流する閉伊川の源流から河口域に設けた4地点にて体験活動を、4泊5日の日程で行うこととしました。

1日目

インドネシア・スラウェシ島メナド市からサムラトラギ大学の学生が、成田空港に9時に到着しました。学生10名(女子学生7名、男子学生3名)と担当教員を迎え、大学のある品川駅を目指しました。

2日目

講義では、サクラサイエンスの概略を紹介し、閉伊川における研究紹介を行いました。2013年から実施している耳石によるサクラマスの生活履歴、生態の研究動向について理解を深めました。次に、FIV(Food Intrinsic Value:食の本有的価値)について講義を行いました。FIVは、岩手県閉伊川流域での研究活動によって創出された概念で、「森川海と人との時空間的なつながり」のことです。

3日目

都市沿岸域の水質環境改善を図る鉄炭ヘドロ電池技術について、講義と実験、フィールド実験場の見学を行いました。午後は、35度を超える気温の中、浄化実験を行っている芝浦地区に移動し見学しました。浄化実験場所を見学後、生物採集・観察を行いました。

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浄化実験場所を見学後,生物採集・観察を行いました

4日目

早朝6時半にホテルを出発し、7時40分東京駅から新幹線へ乗車。昼前に、区界高原に到着。直ちに閉伊川源流へと向かいました。途中、針葉樹と広葉樹の若木に囲まれた場所で「目を閉じて何を感じますか?」の問いかけに、学生達は、「ダマイ damai」と応えました。ダマイとは、インドネシア語で平和と言う意味です。他の学生は「プライスレス」(金銭とは関係の無いのどかな場所)と応じました。

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「目を閉じて何を感じますか?」に「ダマイ 平和」と応えました。

川沿いの細い小道を歩き続けること2時間、源流に到達。数メートルの高さまで堆積した腐葉土、その腐葉土に深く入り込んだ木の根と砂礫層があり、水が湧き出ていました。その後、兜明神の登頂に全員が挑戦しました。快晴の下、北上山地最高峰早池峰山が見えました。

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最後にチームは兜明神を登頂しました。

夜の講義では、閉伊川流域の広葉樹は、秋になると落葉し、河川に落ちて水中で溶け出すことの意味を考察しました。学生の一人は、「森を保全することで、低温かつクリーンな河川環境が維持され海へとつながる。そこには、生物多様性と人々の生活がある。このつながりがいかに重要であるかを、多くの人々と共有したい。」と感想を綴りました。地球環境問題の課題解決のために、話し合いや自然保護区での体験活動ももちろん大事ですが、身近に接することができる自然豊かな環境の中で自分自身の存在を考えることも重要です。

5日目

地元道の駅やまびこ館からスタートし、蟹丘滝までの旧道を川沿いに往復し、アユが苔を食む様子、蟹丘滝の海底地層を観察しました。復路、地元の方にインタビューを行い、地元の食材を提供頂きました。昼はエコツーリングの拠点である「やまびこ館レストラン」で各自注文し、美味しくいただきました。夕食後、本日の振り返りを行いました。学生らは「閉伊川に注ぐ湧き水が、飲料にもなるほど清冽であること、その水が命をつなぐ水であり、水を通じて、つながっていることを意識することが大切であり、そのための研究と教育が重要です。」と結論づけました。

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浄土ヶ浜にて生物観察採集を実施

6日目

三陸復興国立公園の玄関口の浄土ケ浜に到着後、海洋生物の観察を実施しました。午後は、宮古市の台所である「魚菜市場」に訪問し、場内にてダンスを披露しました。

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魚菜市場にてダンスを披露する学生

7日目

6時に起床して魚市場を訪問しました。ケビン君から、水揚げした魚が臭くないと、驚きの声が上がりました。清浄な冷海水と、毎日1000トンを製造貯蔵する鮮度技術。このような仕組みが日本の魚食文化をささえていることを、実感したようです。

8日目

サムラトラギ大学の教員1名、学生10名の一行は、本日帰国の途に着きました。

参加した学生達の感想で目立ったのは、生物多様性や生態系サービスを維持するためには、実際に健全な自然環境において実体験を通してそれらを理解することが大切であるとした内容です。そのためには、森川海をつなげる水環境を健全な状態に維持することが重要です。今回のサクラサイエンスの目的「FIV:(Food Intrinsic Value、 食の本有的価値)を理解することで、生物多様性・生態系サービスを含む自然環境やそこに住む人々に対する共感力を高め、レジリエントで持続可能社会構築について学びを深める」についておおむね達成できたのではないかと考えています。