2018年度 活動レポート 第121号:武田計測先端知財団

2018年度活動レポート(一般公募コース)第121号

キルギスの大学生、若手研究者が日本のIoT技術について学ぶ

武田計測先端知財団からの報告

武田計測先端知財団は、2018年7月23日(月)より8月1日(水)の日程でキルギスの大学生、研究者11名を招へいし、アジアにおけるIT人材の育成に資することを目的に日本のIoT技術について体験学習を行いました。

キルギス共和国は、天山山脈中に位置し、中央アジアのスイスと呼ばれています。産業は農業と観光が主であり、天然資源に恵まれない中で経済成長を遂げた日本の科学技術に関心を持っています。キルギス政府は、2030年までに国内のIT産業に従事する労働人口を5万人に引き上げることを目標にハイテクパーク法を定め、IT分野の人材育成を行っています。

IoT応用

今回の研修では、まず、IoTの具体的な応用について見学し、その後、IoTを支える基礎技術の研究について研修することにしました。具体的には、柏の葉スマートシティのスマートグリッド(エネルギー)、東京農工大とFarmnote社が開発した乳牛の個体管理(酪農)、渋谷区観光協会が実証実験を行ったおもてなしプラットフォーム(観光)について研修しました。

写真1
東京農工大中條研究室にて

活動報告ではキルギスからの参加者が特に興味を示したIoTの酪農応用について紹介します。東京農工大とベンチャー企業のFarmnote社は、乳牛の首に加速度センサーを付け、乳牛の活動によって生じる加速度変化をコンピュータで解析し、牛が妊娠しているか、あるいは出産しようとしているかを判断するシステムを開発しました。酪農業では、妊娠と出産を繰り返すことにより、牛乳が常時でるように管理しています。農家は、本システムを導入することにより妊娠や出産をコントロールでき、牛乳の生産量が増やすことが可能になります。キルギスは、元々遊牧民であったことから、いまでも酪農に従事している人が多く、IoTによる乳牛の個体管理には非常に興味を示しました。

IoTの基礎技術の研究

IoTを支える基礎技術については、東大生産技術研究所(生研)平本研究室で超低消費電力デバイスの開発と半導体製造に用いるクリーンルームを見学しました。また、同じく生研の高宮研究室では、IoTのセンサー等に必要なエネルギーハーベスティング技術の実験について体験学習をしました。東大大規模集積回路設計研究センターでは池田誠教授に、IoTを実際に使用する際に必須のセキュリティ(暗号)技術について説明を受けました。IoTの基礎技術の研究で、キルギスからの参加者が最も興味を示したのは、生研のハードな半導体製造と高宮研究室での無線給電の実験でした。キルギスでは、半導体製造のようなハードな産業がないため、ITの研究者も半導体製造り現場を見たことがなかったようです。

写真2
東大生産技術研究所のクリーンルーム前にて
(緑色の衣類はこれから着用する防塵服)

高宮研究室では、空中ディスプレイ向けに3次元空間を飛び回る発光体を制作し、この発光体に無線で電力を送る無線給電に成功しました。下の写真は、キルギスの学生が空中を飛び回る発光体の実験に参加しているところです。キルギスの学生にはこのような物理的な実験は珍しく、実験内容についての質問が尽きませんでした。

写真3
 

LPWA(Low Power Wide Area)

IoTでは、今後、センサーからの情報を安価に送る技術(LPWA)が必須になります。今回は、参加者の迷子防止のためリーンテック社が開発中のGPSセンサーを持たせ、各人の位置を24時間確認できるシステムについて実証実験を行いました。誤ったアラームが出やすい等の問題があったものの、このシステムにより常時各人の位置を確認することができ、迷子防止に役立ちました。

写真4
GPSセンサー本体をパウチに入れて携帯

最後に8月1日の午後、IoT体験学習修了式を行い、キルギス科学技術交流を無事終了しました。

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SSP修了証書授与式(VDEC会議室)