2018年度活動レポート(一般公募コース)第101号
タイの大学生・大学院生が低温システムの理論と応用を学ぶ
高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
教授 仲井浩孝さんからの報告
日本ではリニア中央新幹線の2027年の開業(品川・名古屋間)を目指して実用化が進められており、超伝導という言葉が最先端技術の代名詞となっていますが、日本人でも超伝導現象を実際に見る機会が最近になってやっと増えてきたところです。タイ王国でも、超伝導現象やその応用を教科書で知識としては知っていても、実際にどのようなものであるかを知る機会は残念ながらほとんどありません。
今回、さくらサイエンスプログラムの支援を受け、タイ王国のシラパコーン大学(Silpakorn University)およびマハーサーラカーム大学(Mahasarakham University)、チェンマイ大学(Chiang Mai University)から、英語が堪能で低温工学に興味のある優秀な大学生および大学院生7名と教員2名を大学共同利用法人高エネルギー加速器研究機構に2018年9月13日から22日までの10日間招へいして、低温工学の基礎から加速器における超伝導の利用についての講義および実習を行い、タイ王国における低温工学発展の端緒となるような科学技術研修を行いました。
低温工学は熱力学や流体力学のみならず、統計力学や量子力学、物性論などの複合領域であり、10日間の短期間では習得不可能であるため、タイ王国内での知識と経験の伝承を念頭に3年間にわたる複数年度計画としました。初年度となる今回の研修では、タイ王国側の希望で9名の招へい者の他にタイ王国の各大学の関係者10名が参加して盛大な開講式を行いました。
講義は総合研究大学院大学で行われている低温工学の授業内容を基にした内容とし、低温工学の基礎から実際に稼働している最先端の超伝導加速器用低温システムの紹介まで概観できるものとしました。また、高エネルギー加速器研究機構内の超伝導研究施設の見学を行い、講義で得られた知識を具体化した実際の施設を見ることによって知識の固定を図りました。
一方、超伝導技術を支える液化ヘリウムや液化窒素を用いた実習を行って、知識だけではなく、経験に基づいた低温工学の習得を目指しました。招へい者たちは、毎日、講義や実習が終わった後に自主的に勉強会を行い、その日に学んだ内容の復習や疑問点の解決を行っていたそうです。
研修の最後に、講義内容の総復習を兼ねて、招へい者に講義内容のまとめを発表してもらいました。一応、発表資料作成の時間を設けたのですが、実際には前日の夜に発表内容の分担や資料作成は終わっており、招へい者のチームワークや勤勉さが覗えました。
その他に、高エネルギー加速器研究機構内の施設見学や日本科学未来館訪問、和食レストランでの懇親会など、多彩な内容を盛り込み、充実した10日間になったと思います。帰国後に送られてきた招へい者の感想文でも、高エネルギー加速器研究機構の巨大な研究施設や目の前で実現されている極低温の世界が大変印象に残ったようでした。来年度は、今年度の実績を検討し、更に充実した研修内容にする予定です。