2018年度活動レポート(一般公募コース)第071号
最先端技術融合による日中共同研究
九州大学先導物質化学研究所
准教授 長島一樹さんからの報告
現在世界中で著しい発展を遂げている情報化社会において、私達の身の回りの様々な物理的・化学的情報を抽出するセンサ技術が次世代IoT(Internet of Things)展開へ向けて強く求められています。その中でも特に環境中に存在する化学物質の種類や濃度を検出する化学センサの開発に高い関心が集まっています。
今回のさくらサイエンスプログラムでは、中国の复旦大学微電子学院Lu教授のグループから教員1名、博士研究員1名、大学院生3名を九州大学先導物質化学研究所に招へいし、2018年8月27日から9月5日の10日間に渡り、単結晶金属酸化物ナノ材料による新規化学センサ開発へ向けた共同研究を実施しました。
来日2日目に当たる8月28日には双方の代表者による大学・研究紹介セミナーが開催され、互いの研究内容の理解や共同研究の課題設定などを行いました。大変多くの研究内容に関する質問が九州大、复旦大の大学院生を中心としてなされ、本プログラムを通して異分野研究の知識や技術を習得しようという高いモチベーションが見て取れました。
セミナー後には早速化学センサに用いるナノ材料(金属酸化物ナノワイヤ・ナノシート)の合成に取り掛かり、夕方に予定していた懇親会の開始時間ギリギリまで実験を行っていました。
3日目以降は引き続きナノ材料の合成実験や評価を行うと共に、微細加工技術を駆使して単一ナノ材料によるセンサデバイスの作製に取り組みました。途中、ナノ材料の合成が上手くいかないといったトラブルに見舞われましたが、成長メカニズムに基づいて合成条件の見直しを行い対処しました。また、复旦大学にも微細加工装置はあるものの、単一ナノ材料によるデバイス作製はこれまで行ったことがなかった様で、参加した博士研究員や大学院生は説明を興味深く聞くと共に、プログラム期間内に本技術を習得して自国に持ち帰ろうと積極的に実験を行っていました。
5日目以降には、招へい研究グループの強みである原子層堆積技術を利用してナノ材料表面に異種材料を組み合わせた機能融合ナノ材料を作製し、目的とするセンサデバイスを完成させました。
9月1日(土)の週末にはアサヒビールの工場見学へ行きました。
8日目以降には作製した化学センサの特性評価を行いました。性能を比較するために様々な実験条件でセンサデバイスを作製しており、全てのサンプルの特性評価を行うため昼夜問わず実験を行っていました。
最終日前日に当たる9日目には成果報告会を開催し、さくらサイエンスプログラムの修了証をお渡ししました。10日間という短い期間内での実施になりましたが、大変多くの実験結果と今後の共同研究継続の種となる興味深い知見を得ることが出来ました。参加した学生や博士研究員は今回の研究交流に大変感銘を受けたようで、Lu教授より九州大-复旦大間の交換留学を積極的に進めていきたいとのお話しを頂いており、今後の展開が期待されます。