2017年度活動レポート(一般公募コース)第378号
インド工科大学の大学院生とのBMI共同研究が深化
〜カーロボ連携大学院「BMI・ミニロボット設計総合実習」での共同研究活動〜
九州工業大学大学院生命体工学研究科からの報告
さくらサイエンスプログラムで招へいされた、インド工科大学カーンプル校の総勢7名(ポスドク研究員1名、博士課程1名、修士課程2名、学部生3名)および本学招へい負担者(リサーチアシスタント1名)が2018年1月6日から16日までの10日間、九州工業大学大学院生命体工学研究科に滞在し、脳波計測および知能ロボット研究開発の現場に参加し、実習及び共同研究活動、研究成果発表会を行いました。
インド工科大学カーンプル校機械工学科のバチャタリア教授(スマートマテリアル・デザインプログラム)の研究室とは、昨年のさくらサイエンスプログラムで招へいした縁から、新たな学生が次々と日本での実習、共同研究に意欲を示しています。本年から同プランで3年間の継続採択が認められたことと相まって、希望者を予備選抜する事態ともなり、招へいする立場としては、選び抜かれた優秀な参加者が渡日するということで、嬉しい悲鳴と言える事態となりました。
九州工業大学大学院生命体工学研究科が所在する北九州学術研究都市(学研都市)は複合キャンパスであり、北九州市立大学、早稲田大学を含む国・公・私の工学系3大学院が連携し、北部九州の基幹産業である自動車産業及び先進技術である産業用・サービスロボット産業におけるリーダーシップを発揮する人材の育成プログラムとして、連携大学院インテリジェントカー・ロボティクスコース(カーロボ連携大学院)が運営されています。そのプログラムの一環としての海外短期滞在生のための特別プログラムは、今や海外との共同研究の足がかりとして着実な発展を得ています。
九州工業大学大学院では、脳型知能創発システム(我妻)研究室に在籍する博士前期(修士)課程、博士後期課程の大学院生(インドからの留学生を含む)が、脳・身体・社会の3つの要素から得られた理論をロボット工学や身体支援システム設計に応用する研究を行っています。渡航サポートは事務スタッフの手厚い支援、技術的には本学大学院生が補佐する研修・研究支援体制において、本特別プログラムが実施されていることは特筆すべきことです。
本年は、昨年の取りまとめ役であった先方リサーチアシスタントを中心に、昨年度の成果について詳解し、本年実施計画の詳細について掘り下げた議論から始まりました。折しも、自動運転用AI研究開発プロジェクトにおいて、運動中の生体計測研究における有識者として、中国・広東東軟学院のアイ博士が本学に滞在しており、計画された実習に加え、特別講義および共同研究活動実施が達成されました。
課題は「BMI・ミニロボット設計」でした。BMIとは、脳信号を読み取り、機械との情報伝達を行うブレイン・マシン・インタフェースの略称で、身体や脳の一部の機能不全のために障がいを持つ人に対して、その人が何をしたいかの意図を読み取り、ロボット機器がその人の身体に代わって動作支援するという最新の研究開発です。つまり脳信号、計測、ロボット制御など、複合技術の集大成です。
昨年度は、ロボット制御の部分が完成し、脳波計測および信号処理の部分には課題が残っていました。そこで、脳信号解析班を1チームとして組織し、課題達成を行ないました。参加者は、工学系やデザイン系の学生で、十分な基礎知識はあったものの、数理的な理論基盤から、実機製作を通して現実の有効性検証を行う融合研究に参加するのは初めてのことです。本特別プログラムを通して、日本の科学技術の先端的・学際的な研究に触れ、その具体的方法論を学ぶ研究活動ができ、これまで体験したことのない有意義で刺激的な体験となったとの感想が得られました。
最終的な研究成果の発表会では、参加者がそれぞれ独自性のある提案で総合課題を実現した成果が得られ、発表会に参加した同大学院生命体工学研究科教員並びに大学院生らと活発な議論が展開されたこともあって、極めて積極的な研究成果発表となり、それらの成果はカーロボ連携大学院においても高く評価されました。
研究活動の合間となった週末には、科学、環境、歴史、日本文化について研修を行いました。 世界文化遺産登録となった「明治日本の近代化産業遺産―九州・山口と関連地域」の一つである旧官営八幡製鐵所関連施設、北九州イノベーションギャラリーにおいては、日本の戦前・戦後の産業技術等に関する展示・体験施設に触れ、日本の産業技術発展の歴史を学びました。北九州市立いのちのたび博物館(北九州市立自然史・歴史博物館)では、世界最大級の恐竜標本を展示し、地球誕生から現代に至るまでの自然と人間の歩みを展示・解説しており、国内有数の自然史・歴史博物館に驚き、ロボット技術(恐竜の動作再現)が博物館においても先端技術として活用されている事例を体感しました。北九州市環境ミュージアムでは、北九州市が戦後復興を支える工業地帯の一つとして多大な貢献をした一方で、環境破壊など様々な問題に直面し、社会運動、技術革新により公害克服した歴史を知り、熟考しました。
また、北九州市に本社を置き、ロボット開発・製造において世界的に知られる株式会社安川電機が100周年事業として2015年にオープンしたロボット村も訪れました。これまでのロボット開発の歴史を探訪する「安川電機歴史館」、実際のロボット生産工場を見学する「ロボット工場」そして、最新の企業研究成果とその未来を紹介する「安川電機みらい館」を次々体験し、参加者らが強く訪れたいと希望していた日本企業のロボット開発・製造の現場を垣間みることができ、感銘を受けていました。
また、参加者らは北部インド出身のベジタリアン(菜食主義者)も多く、3週間のプログラム期間中は、本学在学の留学生と協力し、食事当番を順番に担当しながら、インドー日本の交流の現状、そして、日本でどのように留学生が研究活動を行い、生活しているかを話し合いながら、生活体験し、心に刻みました。
最後に、さくらサイエンスプログラム本プログラムの参加者から、日本が精緻な科学技術で目覚ましい進歩をし続けている理由が、仕事に誇りを持ち、ルールを守り、互いの価値を認め合い育む文化であることを知ったことは大きな意味があったと、参加者から謝辞を受け取りました。アンケートにおいても非常に有意義であったという多くの感想を得て、このようなプログラムを実施する機会を与えてくださった、さくらサイエンスプログラム、関係各位にこの場を借りて心から感謝の意を表します。