2017年度活動レポート(一般公募コース)第327号
インドネシアと日本の天然物資源の有効利用を目指して
産業技術総合研究所 材料・化学領域 化学プロセス研究部門からの報告
平成29年10月1日~10月6日に、産業技術総合研究所・化学プロセス研究部門は、さくらサイエンスプログラムの支援をうけ、インドネシアからDiponegoro大学のSilviana先生を始めとして全7名の研究者を受け入れました。
今回の招へいプログラムでは、産総研・化学プロセス研究部門が進めている高圧CO2などの環境調和溶媒を利用した医製薬・食品の抽出技術や材料製造技術を紹介し、インドネシアの天然物資源の有効利用技術に応用展開できないかについて、両国の研究者を交えて議論や交流する場を設けることを主要な目的としました。
また、研究部門全体の技術紹介や研究者交流を幅広く行い、将来的に息の長い共同研究に繋がるように、協議の時間を多くとるように努めました。インドネシア側の研究者の要望により、連携大学院の東北大学を訪問してミニワークショップを開催し、技術交流や学位取得などについても話し合う機会を設けました。
6日間という限られた時間でしたが、弊所の最新の技術を紹介し、今後の共同研究の基盤を構築できた貴重な機会となりました。また、インドネシアからの招へい者は全員初めての来日であったため、スケジュールや移動時間を調整して、出来るだけ日本の文化や歴史に触れられるようなプログラムと致しました。以下に、招へいプログラムで行った幾つかのイベントについて紹介させていただきます。
日本科学未来館
インドネシアから日本への飛行機は夜行便で、早朝に羽田空港に到着しました。必要な手続きを済ませて、ホテルに荷物を置いた後、日本の科学技術に触れてもらうために、お台場にある日本科学未来館へ向かいました。向かう途中で、お台場のハラルレストランでランチを取りました。そこのテラスにて、招へい者らが持参した横断幕を掲げて記念撮影を行いました。当日は雲一つない快晴でとても気持ちが良かったこともあり、テラスから徒歩15分ほどかけて日本未来科学館へ移動しました。インドネシアでは徒歩移動をあまりしないらしく、「日本人はこんなに歩くのか?」としきりに言っており、文化の違いに驚いた様子でした。日本科学未来館では、それぞれが好きな場所を見学できるよう自由行動にしました。長旅の疲れも見せず、集合時間ぎりぎりまで興味深そうに館内を巡っていたのが印象的でした。その後は、バスと電車でホテルへ戻り、和風レストランで新鮮な魚介類を満喫して、無事に初日を終えました。
産業技術総合研究所つくばセンター
2日目は、東京からつくばへ移動し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・筑波宇宙センターを訪問しました。ここでは、宇宙関連技術の展示を見学しましたが、招へい者らは宇宙ステーションや人工衛星そのものよりも、その構成材料に強い関心を持ったようでした。
見学後、産総研つくばセンターに移動し、情報交換と施設見学を行いました。はじめに、化学プロセス研究部門・濱川部門長が産総研および研究部門の概要を紹介し、Diponegoro大学・Silviana先生が所属の大学や工学部について説明しました。
その後、化学プロセス研究部門の研究グループ長および研究者により、研究開発成果の紹介と実験設備の見学が行われました。インドネシアの招へい者たちにとっては初めて見るものが多かったようで、装置や材料について盛んに質問していました。
夕刻から、懇親および情報交換を目的として、同センター内で交流会を開催しました。招へい者の数人は日本で博士号を取得することを希望していたためか、研究だけでなく教育システムについても話題が広がりました。
3日目は、産総研つくばセンター内の地質博物館のツアーに参加しました。インドネシアは日本と同様に火山と地震が多いため、招へい者らの関心も大変高く、予定時間のほとんどを火山と地震の説明に費やしたことが印象的でした。その後、同センター内のサイエンススクエアで、産総研全体の研究開発の取組みや産総研発の実用化技術について紹介しました。午後は、次の目的地である仙台に向けて移動し、産総研東北センターの関係者主催の懇親会に参加しました。
産総研東北センター
4日目は、産総研東北センターで、今回の招へいプログラムのメインとなるワークショップを開催しました。インドネシアの招へい者らと産総研東北センターの関係研究者に加え、興味を持った研究者が多数参加してくれました。ワークショップは午前中から始まり、東北センターの松田所長の挨拶を皮切りに、化学プロセス研究部門の角田副部門長の歓迎の挨拶、Silviana先生の返礼とDiponegoro大学の紹介へと続きました。参加した研究者の自己紹介を相互に行い、ざっくばらんな雰囲気の中、ワークショップは進行しました。
昼食前に集合写真を撮影し、午後には各自の研究内容を紹介する研究発表会を開催しました。研究発表会では、インドネシアの招へい者らや川﨑主任研究員を始めとした東北センターのメンバーによる活発な討議が行われ、お互いの研究について理解を深めることができました。
研究発表会はとても盛況で、予定時刻をだいぶ過ぎてしまいましたが、その後に産総研東北センター内のラボツアーを行いました。東北地方で多く産出する粘土を材料とした「クレースト」技術など、合計5か所のラボツアーを行いました。ラボツアーでも招へい者らが熱心に質問する場面が多々見受けられ、産総研東北センターの技術に強く興味を持っていただけたようです。
ラボツアー終了後に交流会を催しました。研究内容のプレゼンに関する討議や、ラボツアーの感想、日本文化に対する質問など、多岐に渡る話題で、インドネシアの招へい者らと産総研のメンバーの交流を深めることができました。交流会の後半に、さくらサイエンスプログラムの修了証の授与式を行いました。招へい者のひとりひとりが笑顔で修了証を受け取っていく様子から、充実した時間を過ごしていただけたことが伺えました。交流会の最後には日本特有の一本締めを行い、産総研東北センターでのワークショップは和やかに終了しました。
東北大学超臨界流体センター
5日目は、東北大学超臨界溶媒工学研究センターを訪問し、ミニワークショップを開催していただきました。超臨界溶媒工学研究センターの猪股センター長から東北大学や工学部、超臨界溶媒工学研究センターについての概略や超臨界流体を利用した研究開発の動向について説明を受けました。その後、同センターの渡邉先生から詳しい研究紹介をいただき、Smith先生には座談会形式でお話しする機会をいただきました。東北大学はインドネシアを始めとしてアジアからの留学生を多数受け入れていることもあり、午前中の慌しい訪問でしたが、招へい者らは博士号取得を目的として日本留学を実現すべく、説明に熱心に耳を傾けていました。
午後は、明朝の帰国のフライトに備えて早めに東京に向かいました。ホテルにチェックインした後、夕方に皆で浅草に向かいました。浅草寺でおみくじを引いたり、仲見世通りでお土産を探したり、スカイツリーを背景に写真を撮ったりと、研修プログラム中とは異なる表情で目を輝かせていました。最後の夕食に何を食べようかと相談したところ、全員一致で“Ramen”との答えがあり、ハラル・ラーメンのお店を探してスパイシーな味付けを楽しみました。
招へいプログラムを終えて
●宗教や文化の違いを理解して受け入れる必要があったため大変でしたが、良い勉強・経験になりました。国が異なれば求められる技術も異なるので、情報交換を通じて研究の視野を広げることができました。
●招へいした研究者らは新しい知識や技術を吸収することに非常に熱意があり、海外での技術研修や留学に積極的な姿勢を感じました。今後の共同研究の展開がとても楽しみです。
●研修プログラムや交流会などを通して、たいへん親日的な印象を受けました。インドネシアでは日本食やアニメなどがとても人気なことを改めて再認識しました。