2017年度 活動レポート 第287号:金沢大学

2017年度活動レポート(一般公募コース)第287号

漢方生薬の生産技術と品質評価方法についての日中研究交流

金沢大学医薬保健研究域薬学系准教授 佐々木陽平さんからの報告

さくらサイエンスプログラムの支援により、中国河南中医薬大学の教員1名および学生4名が 2017年11月19日から10日間の日程で金沢大学に滞在し、研究室のメンバーと一緒に生薬生産に関する研究活動を実施しました。

金沢大学薬学系と河南中医薬大学は平成16年に交流協定を締結しており、交流活動が続いています。2017年6月には日本側から教員と学生4名が河南中医薬大学を訪問し合同セミナーや共同研究の打ち合わせを実施しました。この支援のお陰で、今回は同年の秋に中国側の教員と学生が来日するという相互訪問が実現しました。

漢方薬の材料は、日本では中国からの輸入品を使用しているケースが多くあります。共同研究はこのような生薬について、日本側は DNA 解析手法による、中国側は成分解析手法による品質評価と、それぞれの得意分野で品質を評価するというものです。

今回の招へいの目的は、漢方薬の原料となる生薬の生産方法や品質について日本の状況を見学・理解し、お互いの立場から議論をすることです。11月のこの交流期間は日本での生薬の収穫時期に合わせたものです。寒い時期にも関わらず野外作業も熱心に取り組みました。

研究活動は、生薬原料植物の栽培試験場がある薬用植物園と解析設備がある実験室で実施しました。薬用植物園の見学の後、悪天候の合間に収穫作業を実施しました。研究室のメンバーと交流しながらの共同作業は、中国の皆さんにとっても貴重な体験だったようです。薬草の収穫直前の根の色など、中国との違いを感じ、熱心に観察および写真撮影をしていました。

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金沢大学・薬用植物園前
写真2
薬草収穫後の記念撮影

薬用植物園で収穫した検体は、実験室内での解析作業に使用しました。 研究室の学生の技術指導のもと、ゲノムDNA 抽出から DNA 配列の解析、そして近縁植物間の分子系統学的に解析するという2日間のプログラムです。中国の皆さんはメモを取りながら興味深く操作を進めていきました。

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実験室での風景、葉から DNA の抽出作業

実験の合間には、別キャンパスの金沢大学附属病院の見学に行きました。ここでは漢方医学科の小川恵子先生の解説のもと施設見学をしました。中国の皆さんにとって日本の漢方薬治療現場の見学は初めて体験でした。隣接する漢方薬局では実際の調剤や生薬を見学し、中国産の生薬が実際に使用されていることに改めて感激していました。

写真4
金沢大学附属病院

土曜日は研究室主催の市民公開講座の日でした。河南中医薬大学の王利麗先生に河南中医薬大学の説明と河南省で生産される生薬の解説をしていただきました。中国の皆さんは、日本の市民が熱心に解説を聞く姿勢を興味深く観察していました。休憩時間には持参してくれた河南省の菊花茶を全員で楽しみました。

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河南省で生産される重要生薬

日本の生薬生産事情を知るために学外施設として、富山県薬用植物指導センターに見学に行きました。この施設は全国でも数少ない薬草生産を指導できる県の施設です。黄連の原植物など、特に日本特産種について職員の解説を熱心に聞いていました。

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富山県薬用植物指導センター
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帰りには寺院に立ち寄り紅葉見学

セミナーでは研究進捗状況について発表し合いました。お互いの疑問点など議論を交わしました。次回のセミナーまでの実施内容、分担などについて調整することができました。

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合同セミナー

最終日には薬学系長を表敬訪問、その後、和食を食べながらの送別会を実施しました。金沢大学と河南中医薬大学との今後の交流について歓談しました。この会話では「日中の教員だけではなく、学生同士がこのような相互交流を継続することが重要である」と一致した結論に達しました。

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薬学系長と一緒に集合写真
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送別会

河南中医薬大学の学生の皆さんは日本語が理解できないながらも、短い10日間を有意義に過ごしました。この間には金沢大学の他施設の見学や研究内容、金沢大学生の標準的な生活スタイルなどにも興味を持っていました。初めての訪日ながら全員が再び日本を、金沢大学を訪問したいという印象をもって中国へ帰国しました。金沢大学にぜひ留学したいという感想も聞くことができました。

本プログラムを通じて金沢大学と河南省、そして日本と中国の連携がさらに強固なものになりました。同時に漢方薬の研究を推進するうえでこの連携は必須であり、研究面でも大きな成果となりました。