2017年度活動レポート(一般公募コース)第216号
日本の漢方医薬・医療についての理解を深める日中交流
科学技術国際交流センターからの報告
(公社)科学技術国際交流センター(JISTEC)は、2017年12月4日~8日の日程で、中国青海省科学技術庁・チベット医学研究者16名を招へいしました。
本プログラムは、2017年8月に青海省蔵医院でおこなわれた「日中チベット医薬・漢方医薬学会学術セミナー」に出席された日本の先生方のご協力を得て企画したもので、「日中医学の学術交流と医学文化発展・互恵関係の構築に向けて」をテーマに、日本の漢方医学研究・教育の現場の視察や意見交換をおこないました。
12月5日
午前、東邦大学医療センター大森病院を訪問。はじめに、小原明院長より、「日本の漢方は古代中国に発し、日本の風土・日本人の体質にあわせ独自に発展をしてきた伝統医学である。今回の来訪を機に、チベット医学と和漢の更なる交流を深めることができれば嬉しい」とのご挨拶をいただきました。
その後、東洋医学科 田中 耕一郎准教授により、院内視察と西洋医学と東洋医学の診療を融合させた「東洋医学科」についてご紹介をいただきました。「西洋医学ではカバーできない症状や疾患に対して、東洋医学が非常に助けになる場合もあり、患者の相談にあわせ当該科の医師と協力し漢方薬を処方する」との説明を皆さん興味深く聞き入っておられました。
午後、慶應義塾大学医学部漢方医学センターを訪問。渡辺賢治 兼担教授より、「現代医学のなかで漢方治療をより良く生かす」を理念としたセンターのご紹介の後、煎じ薬「葛根湯(風邪のひき始めに効果がある)」と、「大建中湯(大腸癌術後の腸管機能回復に効果がある)」の試飲をご準備いただきました。
「大建中湯」は、慶應義塾病院で実際に大腸がん手術後の患者に処方されており、手術後退院するまでの日数が短縮しているそうです。ある先生は、「マイコン自動漢方煎じ器」に、「中国では大きな土鍋で大量に煎じるのが一般的、コンパクトで簡単に煎じることができる日本の煎じ器はとても便利、ぜひ購入して帰りたい」と関心を持たれていました。
12月7日
午前、富山大学附属病院和漢診療部・薬剤部、和漢医薬学総合研究所、民族薬物資料館を訪問。チベット医学研究者の東知多杰先生が、柴原直利教授に実際に和漢診察をしていただきました。脈や舌の色を診ることは日中共通の診察方法でしたが、診察台に横たわり腹診をおこなうのは日本独特の方法とのことで、柴原先生のひとつひとつの動作を注意深く観察しておられました。
和漢医薬学総合研究所では、松本欣三所長より、研究所のご紹介とご自身の研究「認知・情動障害をはじめとする中枢神経系疾患の病態と発症機構」について講義をいただきました。質疑応答では、「生薬の成分、効用や配合は、日本と中国、また、古代と現代とでは違いはあるか」、「中医学と和漢の相違点はなにか」など様々な意見交換がなされました。
午後、金沢大学附属病院を訪問。漢方医学科 小川恵子臨床教授に、西洋医学と東洋医学を融合し患者中心の医療をおこなうことで、患者の身体的負担、医療費を軽減する「統合医療」の取り組みについてご紹介をいただきました。
その後、山崎光悦学長を表敬訪問。青海省蔵医薬学会の斗本加先生より、チベット医学書「四部医典医学タンカ詳解」日本語翻訳版についてのご紹介がなされたほか、金沢大学と青海省蔵医学研究院とのMOU締結に向けた具体的な意見交換がなされました。
金沢大学 山崎光悦学長表敬訪問の様子
本プログラムを通じて、参加者は日本の漢方医薬・医療についての理解を深めただけではなく、日本文化や生活習慣、また、温かいおもてなしを通じて、日中双方の人材交流と共同研究への意欲を強くもっていただいたようです。今後の更なる国際交流発展を期待しています。
最後に、今回の交流活動をご支援いただきましたさくらサイエンスプログラム、ならびに訪問受入れにご協力いただいた関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。