2017年度 活動レポート 第208号:熊本大学大学院生命科学研究部

2017年度活動レポート(一般公募コース)第208号

日韓の絆を育んだ、さくらサイエンスプログラム in 九州

熊本大学大学院生命科学研究部 白石 順二さんからの報告

熊本大学医学部保健学科では、平成29年8月21日から28日にかけて、部局間交流協定を締結している韓国の高麗大学校保健環境融合科学大学から学生10名、教員1名を招へいし、ヒトをとりまく様々な放射線(医療・環境・宇宙)を理解し、研究への扉を開くための講座を、「さくらサイエンスプログラム in 九州」として実施しました。

1.プログラムの概要

高麗大学校は大韓民国の中にあって、ソウル国立大学に続く韓国最高の私立大学です。

本学の医学部と保健科学大学、および大学院バイオ融合工学科(現在の保健環境融合科学大学)は、部局間交流協定を締結しており(2010年初回締結、2015年に更新)、本学からは毎年のように学部生を短期研修に派遣しており、また、高麗大学校からも、これまでに10名近くの短期留学の学生を1年単位で受け入れてきました。

今回の体験コースの実施に当たっては、保健環境融合科学大学の金正敏教授の研究室に在籍する学生の中から特に優秀な10名を選抜していただき、保健環境融合科学と放射線技術科学の接点である、「環境放射線」を知ることをテーマに、また、2016年4月に発生した熊本地震による甚大な被害の復興状況を韓国の学生さんたちに実際に見てもらい、熊本大学へ留学することの安全性を確認することを目的として開催しました。

2.プログラムの成果

韓国から日本に到着した高麗大学校の一行を熊本空港で出迎え、そのまま貸し切りバスで鹿児島に移動しました。今回のプログラムの前半は、鹿児島、種子島の南九州を訪れ、本学から持参した環境放射線測定装置で、その地域ごとの環境放射線を測定し、火山や海岸線といった地形や高度の違いが環境放射線にどのように影響するかを理解することでした。

鹿児島に着いた日はそのまま鹿児島で宿泊し、2日目の朝は桜島に出向きました。 韓国からの学生の全員が活火山を見るのが初めてで、空高く上がる噴煙を見て、とても感動していたのが印象的でした。

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桜島の噴火口を背景に

桜島内で環境放射線計測用の試料を採取した後、島内を見学し、午後は鹿児島港から高速船で種子島に向かいました。3日目は、種子島にある種子島宇宙センターの施設見学を事前に予約しており、発射管制室の内部や見学の約1週間前に発射されたロケット発射台の収納の様子を幸運にも見学することができました。宇宙センター見学終了後は千座の岩屋という有名な海岸で環境放射線計測用の試料を採取しました。

写真2
種子島宇宙センターにて

4日目は、朝から宿泊先のホテルを出発し、西之表港から鹿児島港へ高速船で移動し、鹿児島港に到着後は、貸切バスでようやく地元の熊本に到着しました。

5日目は、熊本地震で被害を受けた地域の復興状況の確認と、環境放射線計測用の試料採取のため、貸切バスで熊本の益城・阿蘇地区に行きました。益城地区では、建物の一部や道路沿いの施設に、まだ被害の跡が見受けられましたが、標本採取を行った益城町民グランドや阿蘇西小学校グランドの周辺は復興が進んでいました。ただ、昼食のために立ち寄った阿蘇神社は、まだ、被害の後も生々しく、改めて熊本地震の大きさを訪れた全員が感じました。

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阿蘇西小学校グラウンドでの標本採取

しかし、阿蘇からの帰路に皆で行った大観峰は、以前と変わらぬ雄大な自然を惜しげもなくわれわれの目の前に拡げてくれていて、その美しさとスケールの大きさに、初めて阿蘇を訪れたという高麗大学校の学生たちも、しばし、声を失うほどでした。

阿蘇から戻った一行は、熊本大学の本学がある黒髪地区に立ち寄り、キャンパス内を国際戦略ユニットの方に案内してもらって、今は地震の影響で休館中の五校記念館やその隣にあり、国指定重要文化財となっている化学実験場を外から見学して、5日目を終了しました。

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阿蘇の大観峰にて
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熊本大学五校記念館
 

6日目は、保健学科の隣の本荘中地区にあるアイソトープ総合センターに研修生全員が朝から集合し、それまでに訪問した地域で採集してきた標本や、学内に保管されていた試料を用いて、放射線計測の実験を行いました。

実験には、生命科学研究部の教員に加えて、熊本大学大学院保健学教育部の大学院生がTA(teaching assistant)として付き、高麗大学校の学生たちを4つのグループに分けて、それぞれのグループでテーマを分けて、実験を進めました。

センターに配置されている機器は、どれも高麗大学校では見たことがない計測機器で、それらの精密な装置によって計測され、また画像化された放射線を実際に目で確認することで、放射線に関する理解が高まり、また、無用に恐怖心を持つ必要がないことも知ってもらうことができました。

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放射線計測の実験の様子①
写真7
放射線計測の実験の様子②
 

7日目は研修最終日でしたが、この日は熊本大学医学部保健学科の建物で、前日の実験で得られたデータを元に、成果発表会で発表するためのスライドを作成しました。午後に開催された成果発表会では、全員が英語で環境放射線に関する研究発表を行い、成果発表会の後の修了式では、吉永教育部長から参加した学生一人一人に修了証と記念品が手渡されました。また、引率してくださった金正敏教授にも、保健学科からの感謝状と記念品が贈呈されました。

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成果発表会の様子
写真9
修了証を受け取り,喜ぶ高麗大学校の学生と吉永教育部長
 

8日目は、それまでハードスケジュールだったので、午前中は自由行動として、各自が自分の時間を楽しんだ後、午後の飛行機で無事に帰国の途につきました。

3.今後の展望

今回のプログラム終了後、帰国した学生たちから感想文が届きました。どの学生も今回のプログラムの参加を非常に喜んでいて、一生の思い出になったと書いている学生も1人ではありませんでした。すでに、今回、参加した学生のうち、1名が翌年4月から交換留学生として医学部保健学科に来ることが決まり、それ以外の学生たちも熊本大学への留学を前向きに考え始めたと聞いています。

また、2月には、熊本大学から11名の学部生が高麗大学校を短期研修で訪問します。両校の結びつきは、これまでも決して悪くはありませんでしたが、今回のさくらサイエンスプログラムの実施によって、より強い絆ができたのではないかと思われ、今後、さらに学生間、教員間の学術交流が高まると期待します。

韓国でも一流の高麗大学校の学生たちと時間を共有することは、熊本大学の学生たちにとっても非常に有意義なことであり、国際的な視野を身に着けるだけでなく、テレビやマスコミではわからない、本当の日韓関係についても、考える良い機会になったと思います。

今回、さくらサイエンスプログラムの支援により、熊本、そして九州の良さを韓国の学生さんたちに十分にアピールすることができました。本学では、今後も今回のような教育・学術交流活動を積極的に実施し、国を超えた学生間の友情が数多く育まれる場を提供していきたいと思います。