2017年度活動レポート(一般公募コース)第202号
ベトナムの学生が、安全・快適な室内環境を創出する技術を学ぶ
九州大学総合理工学研究院環境理工学部門
伊藤一秀さんからの報告
急激な経済発展とともに都市化が進行するベトナムでは、大気環境に加えて建築室内環境の質に関する各種問題が顕在化しています。特に揮発性有機化合物VOCsによる室内空気汚染と居住者の健康影響の問題は、建物竣工後の対策には限界があり、設計・施工段階での適切な配慮が求められています。
今回のさくらサイエンスプログラムは、九州大学総合理工学研究院環境理工学部門伊藤研究室とホーチミン市立資源環境大学(HCMUNRE)brの環境学部の共同研究プログラムとして、HCMUNREから学部学生5名と教員3名を招へい(うち学部長のHa先生は別日程での参加のため、さくらサイエンスプログラムとは別プロジェクト予算にて招へい)して、2017年11月22日から12月1日の合計10日間に渡り、実施しました。
現在、九州大学伊藤研究室にはHCMUNREの講師であるNguyen Lu Phuong博士がJSPS外国人特別研究員として滞在しており、特に数値人体モデル(CSP: Computer Simulated Person)を利用した室内環境解析技術の開発に関する共同研究は5年以上の実績があります。今回は、Lu Phuong博士も交えて、計算流体力学CFDの基礎から応用、数値流体力学を基礎とした室内環境解析技術の習得と環境設計への応用、室内空気汚染に伴う暴露濃度予測と制御に関して、みっちりと勉強と共同研究を行いました。
2017年11月22日の福岡到着は早朝であったこともあり、来日して直ぐに九州大学筑紫キャンパスまで移動してもらい、休む間もなく勉強を開始しました。
九大伊藤研究室の教職員と学生15名とベトナムHCMUNREの8名が、すこし狭いゼミ室に集合し、PPTとホワイトボードを利用しながら研究内容紹介を行うとともに、計算流体力学の基礎、解析プログラムの理解と使用方法習得を行いました。HCMUNREから参加した学生は全員が学部4年生でしたが、勉学に対して非常にモチベーションが高く、予定を超えて夜遅くまで、非常に高度な内容まで議論が進みました。
11月25日(土)には、JSPS外国人特別研究員のLu Phuong博士の引率で、九州大学の箱崎キャンパスと伊都キャンパスの見学に行き、最新の研究施設やキャンパス施設を見て頂きました。箱崎キャンパスは殆どの建物が取り壊されて廃墟と化す寸前の姿を、伊都キャンパスでは移転最終段階を迎えた最新鋭キャンパスの姿を目の当たりにして、あまりのギャップに驚いていた様子でした。HCMUNREは教室設備は比較的充実しているものの、実験系設備は少ないということで、大型実験施設には興味を持った様子でした。
11月26日(日曜日)の週末には、太宰府天満宮にお参りに行ったようでした。
平日の殆どの時間は勉強と共同研究に集中するハードなプランを実直に実行したので、皆さん疲れ果てていたのですが、お昼時にはベトナム料理や手巻き寿司などを皆で作って食べ、交流を深めました。
10日間という短い滞在でしたが、特にHCMUNREの学部4年生 N.D. Khoa君は数値解析技術の習得と実施に非凡な才能を見せてくれ、非常に多くの良質の成果を上げてくれました。折角ですので、「Comparative numerical simulation of airflow and inhaled particles transportation in upper airway for inter-subjects of human」というタイトルで論文として纏め、室内環境工学系では有力な国際会議であるROOMVENT 2018に国際会議論文として投稿しました。
最終日前日には成果発表会を開催した上で、最後に、さくらサイエンスプログラムの修了証をお渡ししました。
今回はHCMUNREの環境学部長であるHa先生も同行されましたので、九州大学総合理工学府とのMOUの締結、今後の学生交流のあり方、教員交流の仕組みなどに関して密な議論を行うことが出来ました。参加した学生の中には日本への留学を強く希望する方も複数名いらしたようですので、今後の展開が楽しみです。