2017年度 活動レポート 第191号:上智大学理工学部

2017年度活動レポート(一般公募コース)第191号

持続可能社会実現を目指した日中学術交流

上智大学理工学部機能創造理工学科教授 申鉄龍さんからの報告

2017年9月24日から10月3日の計10日間、さくらサイエンスプログラムにより中国北京交通大学と吉林大学の合同グループとの学術交流活動を実施しました。

本プログラムの招へい者である北京交通大学のグループは、鉄道システム運営のための解析と制御技術を主として取り組んでおり、また、吉林大学では自動車の制御とシミュレーション技術の研究を主に行っています。

一方、受け入れ研究室である上智大学申研究室では自動車エンジン制御を中心とした自動車動力システムのモデリングと制御技術の研究を継続してきました。本プログラムでは、持続可能な社会を実現するためのシステム制御をキーワードに設定し、大学の研究施設を用いた共同研究と、日本の先進的な産業研究開発施設の見学活動を通じて学術交流を行いました。

まず、招へい者達が日本に到着した当日から、申研究室のゼミ合宿に合流し、合同合宿を通じて交流を行いました。合宿では上智大学側は4年生が卒論の進捗報告を行い、中国側のグループは各自の研究室での研究活動を紹介しました。

北京交通大学のチームは、中国の高速鉄道システムというマクロな視点でのシステム制御や最適化の研究を行っており、エンジンの燃焼を制御対象とする吉林大学、上智大学のグループの研究とは対照的です。相互のグループにとって興味深い研究紹介になりました。システム科学と制御技術の視点から共通の課題を改めて認識し、システム理論の普遍性と応用範囲の広さを一同改めて実感させられました。

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合宿勉強会で招へい者が研究紹介
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ゼミ合宿での集合写真

日本の研究施設見学としては、トヨタ自動車株式会社東富士研究所の協力を得て先進的研究施設を見学し、同研究所の先行開発部門研究員の講義を受講しました。講義では自動車エンジン制御研究の最前線を紹介頂き、持続可能社会の基盤となる低燃費で環境にやさしいエンジンの開発コンセプトや、そのための制御アルゴリズムの設計技術の最新のトレンドなどを説明頂きました。実車への実装を最終到達点とした制御系設計におけるハードウェアや法規といった様々な制約の取り扱いの難しさを産業界の研究者からのコメントを通して一同認識しました。

鉄道システムの研究の観点から、鉄道総合技術研究所の見学も行いました。同研究所では鉄道関連研究を行っていることから、特に北京交通大学グループのメンバーにとっては大変刺激的な内容でした。見学に参加した全員、日本での鉄道関連の研究水準の高さを理解し、今後の研究に有益な知識を得られたと感想を述べていました。

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鉄道総合技術研究所での写真
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IPG Automotive代表取締役社長による講演

上智大学内での交流活動では、エンジンテストベンチにてエンジン制御系設計の実験検証を行いました。シミュレーションによる検証が主体の中国の両大学のグループにとっては、実機を用いたリアルタイム制御実験は貴重な経験となり、トヨタ自動車の研究員から講演頂いた内容と併せて、エンジン制御のチャレンジ性が体感できた様子でした。加えて自動車関連ソフトウェア開発企業であるIPG Automotive株式会社の代表取締役社長をお招きし、交通流やドライバといった自動車を取り巻く多様なシステムのシミュレーション技術を紹介頂きました。

中国の両大学のグループ、および上智大申研究室の共通のバックグラウンドである交通システムにおけるシステム科学と制御技術は、お互いに制御対象とするシステムは異なるものの、持続可能性社会実現という目的は同じであり、またシステム科学と制御技術という視点からのチャレンジという意味でも共通です。本交流活動は、お互いにとって新たな知見につながる有意義な交流となりました。

最後に本プログラムでの学術交流活動の機会をいただき、日中グループ一同を代表して感謝申し上げます。

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プログラム修了式での招へい者集合者