2017年度活動レポート(一般公募コース)第86号
ベトナムの大学生が、放射線の計測と原子力の安全利用の基礎を学ぶ
大阪府立大学研究推進機構からの報告
さくらサイエンスプログラムの支援のもと、 研究推進機構の放射線研究センターが中心となって、ベトナム、ダラット大学(DLU)から 学部生5名と教員4名の受け入れを行いました。 国際交流課および工学研究科量子放射線系専攻の学生にも協力をいただき、 様々な講義、実習、見学、シンポジウムを行いました。
<初日>
乗換地のホーチミンを上まわる残暑の大阪にびっくりした一行は、 早朝便の疲れも見せずにホテル近くの堺駅に移動しました。 ベトナムでは電車があまり一般的ではなく、さらにICカードを利用した乗車は、若い学生にとって最初の驚きであったと思います。
2番目の驚きは、意外にも自転車でした。大学職員の自転車を借りて喜んでいる学生によれば、 ダラット大学のキャンパスは丘の斜面に広がっているため、スクーターは多いものの自転車は学外にもほとんど見かけないとのことでした。
本日は、学長室で辻学長の受けた後、 研究推進機構のBNCTセンターとクリーンルームの見学を行いました。 BNCTは重ホウ素化合物と中性子照射を用いた新しいがん治療法であり、 クリーンルームの様々な機器と共に興味深く説明に聞き入っていました。
<2日目>
研究推進機構に所属する植物工場センターを見学した後、放射線の初歩と安全管理についての 講義を受けました。
午後からは、2つの基本的な放射線実習を行いました。 はじめに、ベータ線サーベイメーターを使い、食品や岩石からの自然放射線を計測しました。 さらに、ガンマ線源からの距離と線量の関係、遮蔽体の密度とガンマ線遮蔽量の関係を実測しました。
次に、放射線研究センターで開発している高性能霧箱を用いた実習を行いました。 霧箱は100年以上も前に発明された放射線検出器で、シンプルな測定原理から 初等教育での教材としても用いられています。 我々は、ペルチェ素子を用いた強力な冷却能力と、高電圧印加による雑イオン除去により、検出能力を大幅に高めて、アルファ線のみならず、ベータ線やガンマ線の軌跡の可視化も実現しています。 通常の霧箱で必要とされるドライアイスなどの寒剤が不要なこの機器を ぜひベトナムでも利用したいとの申し出がありました。
<3日目>
放射線研究センターの有する大線量コバルト60ガンマ線照射プールを利用した水中大線量環境での放射線計測を体験しました。 午前中には谷口教授の講義の後、 管理区域にあるコバルト60ガンマ線源および加速器を見学しました。
午後から2つのグループに別れ、「水中放射線計測」「水中イメージング計測」 「自然放射線の水による遮蔽」の3つのテーマを次々に体験しました。 ガンマ線源からの神秘的なチェレンコフ光のイメージや、線源に近づくと急速に 増加する画像ノイズなど、本施設以外では目にできない現象に目を見張っていました。
<4日目>
関西国際空港に近い、京都大学原子炉実験所を訪問しました。 研究所の三澤教授の講義ののち、京大炉(KUR)のホットラボと、臨界集合体(KUCA)の見学を行いました。KURは新規性基準に合格し再稼動したばかりで、炉心室の見学ができなかったことは、一行にとっては残念でした。
午後から堺市に戻り市立博物館を見学し、堺の歴史に触れました。 最後に堺市役所の展望ホールから、世界遺産候補の古墳群や堺の旧市街のパノラマを楽しみました。
<5日目>
本プログラムに参加した先生と府大の先生の間で、合同シンポジウムを開催しました。本学の日越の学生達も参加する中、放射線および原子力の教育の現状、研究トピックについて情報交換を行いました。
また、京都大学から宇根崎先生を招へいし、京大原子炉実験所における人材教育について、講演をしていただきました。 ダラット大学学長のホア先生と大阪府立大学学長の辻先生も力強いスピーチをいただき、シンポジウムは大盛会でした。
シンポジウムの閉会に先立って、すべてのサクラサイエンスプラン参加者への修了証書の授与を行い、サクラサイエンスクラブへの入会を歓迎しました。
<6日目>
空港への帰路は初日に比べ幾分涼しさの感じる好天で、 研修者一行は研修の疲れも見せず帰国の途につきました。
本事業の実現に当たって、学内外の様々な人々の支援をいただきました。 本事業を通してダラット大学、大阪府立大学双方の学生が活発に交流を行うことができ、 両大学の学生にとって貴重な体験となったと考えられます。
また、京都大学原子炉実験所、堺市立博物館、およびシンポジウムにメッセージをいただきました 在阪ベトナム総領事館の皆様には、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。 最後にこの実りある交流の機会を与えていただいた、 さくらサイエンスプログラムに厚く御礼申し上げます。