2017年度 活動レポート 第32号:東海大学情報理工学部

2017年度活動レポート(一般公募コース)第32号

タイ王国モンクット王工業大学トンブリ校との合同学生ワークショップ

東海大学情報理工学部 高雄元晴さんからの報告

筆者の企画・運営のもと、タイ王国モンクット王工業大学トンブリ校(KMUTT)から産業デザインを学ぶ10名の学生と1名の引率教員を招いて、2017年8月21日~8月27日の日程で、東海大学情報理工学部の学生8名とともに4日間にわたるワークショップを行いました。このワークショップでは、3日間かけて両校の学生が合同で筆者の監修のもと研究テーマおよび実験計画の提案を行うとともに、実験を実施、その結果を解析しました。

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ワークショップの様子

4日目は本ワークショップに併せて企画・実施した研究シポジウムにおいて、両校の教員および学生総勢30名を前に研究発表を行い、盛んに議論がなされました。その後、元タイ東芝キャリア社副社長の長澤敦氏により「企業が望む人材像と自己研鑽」というテーマで1時間にわたって講演会を行い、学生達の今後の活躍にエールを送りました。

研究テーマの提案は2題あり、いずれも筆者の研究室で実施可能なものでした。一つ目は、「ロウソクの灯りを見つめることによって瞑想が促進されるのか?」というテーマでした。

実際のロウソクを実験室内で灯火するのは安全上問題があるため、代わりにLEDを用いてロウソクの灯りのように明るさをランダムに揺らがせる電子回路を製作して実験に供しました。

瞑想時に脳波を記録すると前頭部からFmθ(エフエムシータ)波という脳波成分が多く出現することが知られていますが、それを指標にして瞑想の深さや長さを測定しました。

写真2
瞑想実験時の様子
写真3
脳波記録実験の様子

実験は、ただの白い紙を見つめて瞑想する条件、そして白い紙の下に設置した赤色LEDの点滅を見つめながら瞑想する条件の二つで、それぞれ同じ被験者で行いました。その結果、残念ながら学生達の仮説とは真逆の結果が得られ、むしろLEDの点滅を見つめていると瞑想が妨げられることがわかりました。

二つ目は、「バーチャルリアリティーゲームにおいて、ユーザーの視点の違いが没入感にどのように影響を及ぼすのか?」というテーマでした。

これは筆者の研究室ですでに開発されていた「バーチャルリアリティー技術を使った射的ゲーム」をワークショップ用に改造して、被験者が自ら拳銃に見立てたコントローラーを握って銃弾を発射する時(一人称視点)と、眼前に現れる拳銃を握ったアバターを操作して銃弾を発射する時(三人称視点)で、没入感にどのように違いがあるのか、アンケート調査と命中率をもとに解析するものでした。

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バーチャルリアリティ実験の様子

実験結果は、学生達の仮説通り、三人称視点に比べ一人称視点のほうが心理的な没入感が高いとともに、命中率も高いことがわかりました。

写真5
バーチャルリアリティ実験の様子

デザインの世界ではhuman centered designといって、ユーザーの心理・生理を重視した設計が近年重要視されています。このワークショプで学生達は、実験を通してユーザーの心理・生理を理解する方法とこれまでわかっている事実から仮説を立て、それを自ら実験を通して検証するダイナミックなプロセスを学べたことと思います。

また、チームワークや様々な考え方を持つ人たちが集まって議論することの大切さを、体験的に学んでもらったものと思います。

学生達からは、「データの見方とそこからどのようにデータについて考えて行けばよいか体験の中から学べた気がする。」、「これまで実際に見たことのない実験装置を使って実験できたことは、緊張とともに大変良い経験となった。」、「みんなで研究できたのは大変良い経験だった。」、「研究成果の発表は緊張したが、大変良い思い出となった。」などの声が聞かれました。

シンポジウム翌日の5日目、KMUTTの学生たちは筆者の引率の下、バスで箱根方面に遠足に出かけ、ガラスの森美術館、関所からくり美術館および箱根恩賜公園を見学しました。ガラスの森美術館には伝統的なベネチアのガラス工芸品に加え日本人による現代作品も数多く展示されており、学生達から「今後デザインを学んでいく上で大変多くのインスピレーションを受けた。」などの感想が聞かれました。

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シンポジウムの様子

関所からくり美術館では、学生達は日本の伝統工芸である寄木細工の説明と製作実演を見学しました。寄木細工のデザインの繊細さと美しさ、そして何より職人の高度な技術に学生達一同の目は釘付けとなるとともに、時に感極まって歓声の声を挙げていました。

学生達からは「寄木細工の存在は知らなかった。寄木細工のデザインはさることながら、薄く切った鉋屑を木工製品に貼り付けることによって素晴らしい民芸品が作られるのは驚きだった。」などという声が聞かれました。

帰国後も彼らの中でこのワークショップの思い出が長く残り、将来産業デザイナーとなったときにこの経験が役に立ってくれればと思います。そして彼らが将来、自身の仕事を通じて、日本とタイ王国の絆を民間レベルでさらに強固にしていってくれることを切に願っています。

写真7
ワークショップ終了後の集合写真

最後になりましたが、両国の絆の深化に僅かながらでも教育を通して寄与できるチャンスを筆者に与えていただいた、さくらサイエンスプログラムに感謝申し上げます。